ゆーとぴあつりーのあれこれ

自分の好きを形に

キーワード能力雑記:【第1回目】~死に触れゆくとき~

ついに始まったキーワード能力雑記。


記念すべき最初のキーワード能力は『接死/Deathtouch』だ。


f:id:teilving:20200313020204p:plainf:id:teilving:20200313015930j:plainf:id:teilving:20200313015947j:plainf:id:teilving:20200313020222j:plain
毒や疫病、酸、呪いなど生物を死に至らせる能力


内容に入る前になぜ1回目に接死を選んだか。
それは総合ルールに記載されている順番にしようと思ったら1番目が接死だったからだ。
どうやら総合ルールでは基本セット2014時点での常盤木能力*1のアルファベット順→その能力の登場順という記載になっているらしい。




閑話休題




話を進めるためにまず、接死の定義を見てみよう。

702.2 接死/Deathtouch

  • 702.2a 接死は常在型能力である。
  • 702.2b 最後に状況起因処理をチェックした以降に接死を持つ発生源からのダメージを与えられた、タフネスが0よりも大きいクリーチャーは、状況起因処理によって破壊される。rule 704 参照。
  • 702.2c 0点でない戦闘ダメージが接死を持つ発生源によってクリーチャーに割り振られた場合、戦闘ダメージの割り振りが適正かどうかを判断する上で、それはそのクリーチャーのタフネスによらず致死ダメージとして扱われる。rule 510.1c-d 参照。
  • 702.2d 接死ルールは接死 ダメージを与えるオブジェクトがどの領域にあっても機能する。
  • 702.2e 効果によってダメージを与える前にそのオブジェクトが領域を変更した場合、そのオブジェクトが接死を持つかどうかを決定するために最後の情報が用いられる。
  • 702.2f 一つのオブジェクトに複数の接死があっても効果は変わらない。


まあ、七面倒くさく書いてはいるが要は「接死を持つ発生源がクリーチャーにダメージを与えたらそれを破壊する」ということを詳しく厳密に書いているに過ぎない。
直感的な理解を正確なルールに落とし込むためにはこれだけの文章が必要というわけだね。


それじゃあ1つ1つ確認してみよう。

702.2a 接死は常在型能力である。


常在型能力とは、起動したり誘発したりすることなく常にあるいは条件が満たされている間ゲームに影響を与え続ける能力のことだ。
また、常在型能力は条件が満たされた場合でもスタックを用いることなく適用されることも忘れてはならない。
もちろん接死はわざわざ起動せずとも効果を発揮するし何かをトリガーに誘発する能力でもない。
接死が常在型能力ということは、接死は持っているだけで効果が発揮される能力ということがわかるし、その際にスタックを用いないこともわかるね。
何を当たり前のことをだらだら書いてるんだと思われたかもしれないが、これには理由があるんだ。


接死/Deathtouchが初めて登場したのは未来予知の頃。
その当時のルール*2はこうだった。

502.63. 接死

  • 502.63a 接死は誘発型能力である。「接死/Deathtouch」は「このクリーチャーがいずれかのクリーチャーにダメージを与えるたび、そのクリーチャーを破壊する。」を意味する。
  • 502.63b 1つのパーマネントに複数の接死能力がある場合、それぞれは別々に誘発する。


なんと接死は登場当時は誘発型能力だったのだ。
ではなぜ常在型能力に変更されたのか。


変更されたのは基本セット2010が発売されたとき。
このころマジックでは大幅なルールの見直しが行われていて、マナ・バーンの廃止や戦闘ダメージがスタックを用いなくなるなど現代マジックの基礎を築き上げようとしていたんだ。


そんな中で当時の接死は大きな問題を抱えていた。
それは、「接死による破壊」と「タフネス以上のダメージを受けたことによる破壊」がどちらも適用されてしまうことだった。
例えば下の図を見てみよう。


f:id:teilving:20200313213404j:plain


今、《不毛地の蠍》が《灰色熊》にブロックされたところだ。
この時、《灰色熊》は「《不毛地の蠍》のパワー分(2点)のダメージを受けた」ことで破壊される。
そして、そのあとに「接死を持つ《不毛地の蠍》からダメージを受けた」ことが誘発する。


f:id:teilving:20200315154445j:plain


接死の効果が誘発した時にはすでに《灰色熊》は戦場にはいないから普通は問題は起きないはずだ。
でももし《灰色熊》がいわゆる「再生の盾」をもっていたらどうなるか。


「再生する」は(それを常在型能力として持っている場合でなければ)「このターン、次にこのパーマネントが破壊される場合、代わりにそれから全てのダメージを取り除き、タップし、戦闘から取り除く」を意味するキーワード処理だ。
要は破壊効果を1回だけ無効化する効果をパーマネントに付与することで、そのイメージから「再生の盾」と呼ばれている。
最近だと「名前に対して効果が直感的でない」「ルールが複雑すぎる」といった理由で使われなくなってしまったメカニズムだね。


上記で示したように再生は破壊効果を1回しか防いでくれない。
すると、「《不毛地の蠍》のパワー分(2点)のダメージを受けた」ことによる破壊は「再生の盾」で防いでくれるけど、そのあとに誘発した接死の誘発は防いでくれないんだ。


f:id:teilving:20200315155629j:plain
f:id:teilving:20200315155643j:plain


つまり《灰色熊》を守るためには「再生の盾」が2枚必要になってくる。
また、《不毛地の蠍》が接死を複数持っていると《灰色熊》を守るためには接死が誘発した数と同じ枚数の「再生の盾」が必要になっていた。
これは直感的ではないしルールも複雑で初心者フレンドリーじゃないよね。


この問題を解決するためにWotCは戦闘ルールを変更する際に一緒に接死についての扱い方も変更することにしたんだ。
その結果、接死は常在型能力になり、誘発型能力でなくなったことから接死を複数持つ意味もなくなった。

702.2f 一つのオブジェクトに複数の接死があっても効果は変わらない。


今現在のルールでは接死を複数持っていても変わらないし、「再生の盾」も1つでクリーチャーを守れるようになった。
より直感的にわかりやすくなったね。


次に

702.2b 最後に状況起因処理をチェックした以降に接死を持つ発生源からのダメージを与えられた、タフネスが0よりも大きいクリーチャーは、状況起因処理によって破壊される。rule 704 参照。


を見てみよう。
ゲーム中ではあまり聞き覚えのない言葉が書いてあるね。
そう、状況起因処理だ。
状況起因処理は簡単に言えばゲーム内で起きたイベントをチェックして実行に移す処理だ。
例えばプレイヤーがライフが0以下になったときプレイヤーを敗北させたり、タフネス以上のダメージを負ったクリーチャーを墓地に置いたりしているのが状況起因処理だ。


f:id:teilving:20200319003739j:plain
稲妻がクリーチャーを殺すのではない。状況起因処理が殺すのだ。


つまりこのルールは接死が状況起因処理の中の1つとして実際にクリーチャーを破壊していることを表しているんだね。


f:id:teilving:20200319004054j:plain
《ルールの法律家》がいると状況起因処理が適応されなくなるため接死でクリーチャーを破壊できなくなる


また、接死によってダメージを受けたかどうかは1回しかチェックしないという点には注意が必要だ。
どういうことかというと、「2/2の破壊不能持ちのクリーチャーが接死を持つ1/1のクリーチャーからダメージ受けた。その後、何らかの方法でダメージを受けている2/2のクリーチャーは破壊不能を失った」という状況を考えよう。
このとき、ダメージを受けている2/2のクリーチャーは1点のダメージを受けてはいるが、既に接死からダメージを受けたかどうかのチェックは終わっているため、破壊はされない。
ここだけは直感的じゃないけど逆に考えるとこのクリーチャーが負っているダメージは誰から受けたダメージだったっけと覚えていなくてもいいわけだ。


次に移ろう。

702.2c 0点でない戦闘ダメージが接死を持つ発生源によってクリーチャーに割り振られた場合、戦闘ダメージの割り振りが適正かどうかを判断する上で、それはそのクリーチャーのタフネスによらず致死ダメージとして扱われる。rule 510.1c-d 参照。


これは戦闘のルールを変更するルールだ。
また例を示そう。


f:id:teilving:20200319011453j:plain


上の例では《不毛地の蠍》を《灰色熊》Aと《灰色熊》Bでブロックしている様子だ。
A→Bの順でダメージを与えるとして、もし攻撃しているクリーチャーが接死を持たないクリーチャー(《灰色熊》C)なら次のようになるよね。


f:id:teilving:20200319011644j:plain


この例だとAとCが相打ちになってBは生き残るよね。
なぜなら、攻撃クリーチャーはダメージ割り振り順で決めた最初のブロッククリーチャーに致死ダメージを与えなければ次のブロッククリーチャーにダメージを割り振ることができないからだ。
だからCはAに1点、Bに1点で両方の《灰色熊》が死亡しないようにダメージを割り振るっといったことはできないんだ。


でも接死を持っていると話は変わってくる。
このルールでは実際にダメージを割り振るよりも前にブロッククリーチャーのタフネスが何点であろうと致死ダメージは1点だと教えてくれる。
つまり下の図のようなことが可能になるんだ。


f:id:teilving:20200319012739j:plain


これもプレイヤーたちの直観を再現するために設けられているルールだ。
もしこのルールがないと、先述したようにもう《不毛地の蠍》の毒で死んでいる《灰色熊》にさらなる追撃を加えなくてはならないからね。
WotCの記事では度々プレイヤーが直観的に想像する挙動と実際のゲーム状況が食い違っているときはルールの方をプレイヤーの直観に合わせるようルールを変更することがあると言及してきた。
つまり、「大多数のプレイヤーがルールを間違って覚えているということはルールそのものが間違っているのだ」という理論だ。
WotCのこういった細かな配慮もマジックが長く愛されている秘密なのかもしれないね。


次のルールは普段はあまり意識しないかもしれない。

702.2d 接死ルールは接死 ダメージを与えるオブジェクトがどの領域にあっても機能する。


これが意味することは別に接死は戦場にある時だけに効果のある能力じゃないよということだ。
つまり接死を持つクリーチャー・カードが墓地や手札、追放領域などにあってもそのカードがクリーチャーにダメージを与えるなら接死は有効なんだ。
と言ってもそれらの領域にあるカードがどうやってクリーチャーにダメージを与える状況なんてあるわけ……

f:id:teilving:20200321190059j:plain

Selfless Exorcist / 無私の浄霊者 (3)(白)(白)
クリーチャー — 人間(Human) クレリック(Cleric)
(T):いずれかの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それを追放する。そのカードは、自身のパワーに等しい点数のダメージを無私の浄霊者に与える。
3/4


あった。
流石マジック、長い歴史を持つだけはあるなあ。
《無私の浄霊者》は墓地のクリーチャーカードを追放できる代わりにそのカードのパワー分だけダメージを受けてしまうといった変わった墓地対策カードだ。
その際に受けるダメージの発生源が追放されるカードのため、接死を持っていると《無私の浄霊者》は死んでしまうというわけだ。


さあ、ルール項目も残すところあと1つだ。

702.2e 効果によってダメージを与える前にそのオブジェクトが領域を変更した場合、そのオブジェクトが接死を持つかどうかを決定するために最後の情報が用いられる。


最後の情報は、あるオブジェクト(呪文やパーマネントのようにゲーム中1つと数えられるものの総称)が以前存在した領域から離れる直前の情報のことを指す。
例えば、《バジリスクの首輪》を装備した+1/+1カウンターが1個乗った《歩行バリスタ》を考えてみよう。


f:id:teilving:20200322000326p:plainf:id:teilving:20200322000317p:plain
いわゆる接死ティムコンボ


ここで《歩行バリスタ》の1点ダメージを飛ばす能力をクリーチャーに対して起動するとどうなるか考えよう。
まず+1/+1カウンターが0個になった《歩行バリスタ》は0/0になり死亡してしまう。
でも起動した能力は《歩行バリスタ》が生存しているかは関係がないからそのまま解決に移るよね。
すると能力にはダメージの発生源は《歩行バリスタ》だと記されている。
《歩行バリスタ》の情報を参照しようにも既に戦場にいない。
だから代わりに《歩行バリスタ》の最後の情報が参照されて接死を持っていたことがわかる。
結果として《歩行バリスタ》の能力の対象となったクリーチャーを接死を持つクリーチャーからダメージを受けたとして破壊することができるんだ。
ちなみに常在型能力は基本的には最後の情報を参照することはできない。
これが参照できてるのはこのルールでしっかりと明記されているからなんだね。


ここまでルールを見てきたけど逆に接死にはできないこと、つまりルールに書いていないことについても確認しておこう。


まず、接死はクリーチャー以外には全く意味がないね。
接死を持つクリーチャーがプレインズウォーカーにダメージを与えても破壊できないし、プレイヤーにダメージを与えても敗北することはないね。
強大な力を持つプレインズウォーカー(プレイヤー)にとって、クリーチャーが持つ毒など些細なことなのかもしれない。


あと、なんやかんやあってダメージが0点になった場合も接死は効果を示さない。
ダメージを防いだということは毒牙には触れていないってことなんだね。




さて、ルールを見ただけでもだいぶ分かったことが多いけどここからは接死が生まれた経緯やそれが持つフレーバーについて語っていこうと思う。


接死が初登場した時期については上でも書いたけど未来予知のときだ。
でもそれまでにも似たような効果は存在していてその起源はマジックの原点、アルファまで遡ることができる。
それがバジリスク能力」だ。


f:id:teilving:20200322015906j:plain
これは無関係


アルファには以下の2種類のカードが収録された。


f:id:teilving:20200322015444j:plainf:id:teilving:20200322015615j:plain
アルファに収録された「バジリスク能力」持ちクリーチャー


これらのカードが持つ「これをブロックしたか、これにブロックされたすべてのクリーチャーは、戦闘終了時に破壊される。ただし、壁は影響されない」という能力をWotCは《茂みのバジリスク》から名前を取って「バジリスク能力」と呼んでいたんだ。
ちなみにバジリスクは蛇の王の異名を持つヨーロッパに伝わる架空の生き物、コカトリスも同じくヨーロッパに伝わる架空の生き物で蛇の尾を持つ鶏とされている。
そしてどちらも猛毒を持っているとされているんだ。
つまりこれらのカードはその毒をもって触れた生物(壁はフレーバー的に生物じゃない)を死に至らしめるというわけだ。
まさにイメージ通りの能力だね。


さて、このバージョンの「バジリスク能力」、今の接死とはだいぶ効果が違うことがわかるね。
さらに、このバージョンと書いたように「バジリスク能力」にはこのバージョンの他に様々なバージョンが存在した。


例えば、破壊するタイミングが戦闘終了時なのか能力が誘発・起動されたタイミングなのか。
例えば、壁以外、黒以外、アーティファクト以外など破壊制限があるのか。
例えば、単に破壊するのかそれとも追放するのか、はたまたマイナス修正という形なのか。
etc...


このように「バジリスク能力」は頻繁に使われる能力にもかかわらず、その効果のテンプレートが存在せず、そのカードごとにテキストを読まないとそれが有効な相手・タイミングがわからなかった。
プレイヤーにとってこの複雑さはゲームを楽しむ上で邪魔でしかないよね。
それはWotCも同じことを思ったようで既に成功していた別のゲームのアイディアを参考にしたんだ。
それがこれだ。


f:id:teilving:20200322154424j:plain
デュエマで一番好きなイラスト


デュエル・マスターズ(以下デュエマ)には初期のころからスレイヤーという能力があった。
スレイヤー能力はバトルの勝敗にかかわらず相手クリーチャーを破壊できるという効果だ。
この能力はデュエマの第1弾から存在し基本的な能力として成功していた。
その成果を見ていたマジックの開発者たちはマジックにもスレイヤーのようなテンプレートを作って「バジリスク能力」を整理するべきだと考えたんだね。
かくして「接死/Deathtouch」はキーワード能力として日の目を見ることができたんだ。


ちなみにデュエマもWotC社が開発しているカードゲームだ。
そのため、マジックのアイディアをデュエマに輸出したり、逆にデュエマからアイディアを輸入したりすることが度々行われているんだ。


さて、接死が生まれた経緯はわかった。
じゃあ接死が持つフレーバーについて見ていこう。


まず、接死/Deathtouchという名前。
接死はDeathtouchをそのまま日本語訳しただけだろうから、英語の方を見てみよう。
当たり前だけどDeathtouchは造語で、Death(死)+Touch(触れる)からなる単語だ。
このクリーチャーからダメージを受けたら(触れられたら)そのクリーチャーは破壊される(死ぬ)ということを簡潔に伝えているね。
プレイヤーがこの名前を見ただけでテキストを読まずともこのクリーチャーは何か恐ろしい能力を持っているに違いないと思わせ、効果を確認した後ではこれ以外ふさわしい名前はないだろうと思わせるいい名前だと思う。
これが、「救済」とかでなくて本当に良かった。
あっ、直訳しただけとか書いたけど、接死という訳も素晴らしいと思うよ。
キーワード能力は過去の一部の能力を除き、漢字2文字で翻訳するという慣習があるんだ。
カタカナでデスタッチと書かれるよりも接死と書いてある方が効果のイメージが付きやすいしかっこいいからね(※個人の見解です)。
そういった意味でも意訳をせずに素直に接死という造語を作ったことは評価できる点だね。


次にカラー・パイから見た接死のフレーバーについて考えてみよう。
カラー・パイはさっくり書くとその色がどのように考えてどのように行動するのかという指針だ。
カラー・パイを見るとなぜその色にはできて他の色にはできないのかというのが見えてくるんだ。
さて、カラー・パイ的に接死を得意とする色は黒で次いで緑が得意ということになっている。
これはなんでだろう。


黒はこの世界を弱肉強食と捉えていて弱者は強者の食い物にされて当然と考えている。
そうなると黒にとって最も信頼できるものは力であり、それを手に入れるためにはどんな手でも使うといった側面がある。
そのため腐敗や疫病、暗殺技能といった他の色が忌み嫌うものも使えるのなら積極的に利用していこうと考えるは自然だ。
そういった側面の表現として接死が得意だというのは納得がいくね。


緑が接死を持っているのは黒よりも単純だ。
自然界には身を守るため、ないしは敵を襲うために体内で毒を作る生き物が多く存在する。
毒とはそれだけ自然界ではありふれたものであり、持って生まれた能力として息を吸うように緑は接死を使うことができる。
ところで、ゲーム的な話になると緑は最もクリーチャーを除去するのが苦手な色だ。
緑にとってクリーチャーは共存こそすれ排除する存在じゃないからね。
そんな中でも例外的に許されているのが飛行クリーチャーの除去とクリーチャーを使ったクリーチャーの除去だ。
接死は後者として緑に与えられている対クリーチャー用の能力なのかもしれないね。


上記を踏まえると黒の方が接死が得意な理由もなんとなく予想ができるね。
黒は最もクリーチャー除去に優れた色だ。
それは黒にとって他者は自分の立ち位置を脅かす脅威か力を得るための障害であり、それを排除しなければ安寧を得られないからだ。
だから黒はその身に接死を宿して除去手段の1つとして利用する。
一方で緑は最もクリーチャー除去が苦手な色だ。
しかし、自然が内包する一種の破壊性の象徴である生命が持つ毒の表現として接死は最適だ。
結果として接死は持つが、黒ほど積極的には利用しないだろう。
つまり黒は能動的に、緑は受動的に接死と向き合っているといえるね。
だからカードとしての必要性を考えると印刷の優先順位は黒に傾いたんだと思う。


さて、接死は黒と緑が得意とすることはわかったけど他の色はどうだろう。
白は防御的でクリーチャーを排除しようとするものを忌避するだろう。
青は知識の探求という理念の達成のために接死を必要としないだろう。
赤はそんな回りくどいことをせずもっと直接的な方法をとるだろう。
つまり他の色はそもそも接死を必要としていないことがわかるね。
事実、黒でも緑でも(そして無色でも)ない初めから接死を持っているカードは今のところ存在していない。
白や青のクリーチャーは黒マナをコストとする起動型能力で接死を得られるものが何枚か存在している。


f:id:teilving:20200325004354j:plainf:id:teilving:20200325004419p:plainf:id:teilving:20200325004346p:plainf:id:teilving:20200325004428j:plain
起動型能力で接死を得るクリーチャーたち


ほとんどが黒マナを要求するのに対して、例外が存在する。
それが自軍のクリーチャーが持つキーワード能力を参照して全体で共有する《月皇の司令官、オドリック》と緑のパーマネントをコントロールすることで得る《毒のイグアナール》だ。


f:id:teilving:20200323023416j:plainf:id:teilving:20200323023625j:plain


とくに《毒のイグアナール》は現状赤単色でテキストに接死と書いてある唯一のカードだ。
いかに赤にとって接死を必要としていないことがわかるね。


最後に接死と関係のあるカードを見ていこう。


f:id:teilving:20200402022258j:plain


キーワード能力と言えばスリヴァー、スリヴァーと言えばキーワード能力と言っても過言ではないほどスリヴァーとキーワード能力は密接に関連している。
スリヴァーは同族である他のスリヴァーたちと自身が持つ能力を共有するというメカニズムを持っているクリーチャー・タイプだ。
そして多くのスリヴァーたちは自身の持つキーワード能力を仲間と共有するんだ。
さて、そんなスリヴァーたちにはもちろん接死を共有するものもいる。
それがこの《毒牙スリヴァー》だ。
フレイバー・テキストを読むに彼らは人間たちによる毒矢攻撃を耐えた結果、ついにその毒に対して耐性をつけ、逆に自らの武器としてふるまう力を仲間と共有するようになったようだ。
彼らを襲っていた連中にとってはこれ以上に恐ろしいことはないだろうね。


さて、接死を共有するスリヴァーは《毒牙スリヴァー》だけだが、接死の登場前に収録された「バジリスク能力」を共有するスリヴァーもいる。
それが《毒素スリヴァー》だ。


f:id:teilving:20200402022253j:plain

こちらのフレーバー・テキストを見るとこの毒は攻撃用というよりは敵に毒を持っていることをアピールすることで襲われにくくするという使い方をしているみたいだね。
実際、このバージョンの「バジリスク能力」は接死とは違い戦闘ダメージでしか誘発しない。
この毒はあくまで敵に戦闘を躊躇させ、自らの身を守るために持っているのであり、攻撃などの他の用途で使う想定ではないというフレーバーであれば接死よりも「バジリスク能力」の方が適しているのかもしれないね。
ちなみに最も接死が多い色は黒で次いで緑と解説したけど、最も「バジリスク能力」持ちが多い色は緑で次いで黒という順番なんだ。
スリヴァーに関してだけ見ると、お互いその能力の2番手に位置する色のスリヴァーが共有役であるという点は少し面白いね。


f:id:teilving:20200326002107p:plain


《群衆の威光、ヴラスカ》は接死を持つクリーチャーがいずれかにダメージを与えるとそのクリーチャーに+1/+1カウンターを1つ置く常在型能力を持っている。
ヴラスカはゴルゴンのプレインズウォーカーで一流の暗殺者だ。
その上で信奉者と呼ばれる暗殺者集団を引き連れている暗殺集団の長でもある。
この効果は、自身の信奉者たちに自分の暗殺技術を分け与えているように見えるね。
また、忠誠度能力で生成されるトークンはいわばプレインズウォーカー版接死と言える能力を持っている。
彼女とその信奉者たちがいかに暗殺に長けているかということがわかるね。


f:id:teilving:20200326003946p:plain


次に見ていくのは《鏡の盾》だ。
これは先ほどのヴラスカと違い、接死を持っていることが不利になるカードだ。
その効果は、《鏡の盾》を装備しているクリーチャーが「接死を持つクリーチャーが1体、これをブロックするか、これにブロックされた状態になるたび、そのクリーチャーを破壊する」というものだ。
つまり、接死による毒牙にかかる前に相手を打ち倒すことができるんだ。
さて、これはフレーバーの話なんだけど、なぜ接死を持つクリーチャーは鏡でできた盾で破壊されてしまうんだろう。
それはこのカードが登場したマジック最新セットである大好評発売中テーロス魂還記に関係している。


テーロスはギリシャ神話をモチーフにした世界だ。
そのため、テーロスに登場するキャラクターやエピソードにはギリシャ神話を元ネタとするようなカードがいくつも存在している。
《鏡の盾》もその1つだ。
ギリシャ神話には神と人間のハーフ、半神と呼ばれる英雄が何人も登場する。
その中の1人にペルセウスという男がいた。
ある時、彼は島の領主からゴルゴン3姉妹の1人、メデューサの首を取って来いと命じられる。
ゴルゴンはその目でにらまれると石になってしまうという恐ろしい怪物で、誰も倒せるなんて思ってもいなかった。
これは彼の母ダナエ(元姫で超絶美人)を狙っていた島の領主によってしかけられた罠。
ペルセウスがこの命令を断ったら領主に背いたとして死刑、従ったら誰も倒せるはずのないメデューサによって殺されるとどちらに転んでも邪魔者であるペルセウスを排除できるという寸法だった。
従うしかなかったペルセウスだったがそこは半神、父親はあの主神であるゼウスということもあり、アテナやヘルメスといった神々からチート級の武器を借り受ける。
その中の1つにあったのが青銅でできた鏡の盾だった。
ペルセウスはゴルゴン3姉妹のところまでたどり着くとその石化の視線を盾で防ぎながら近づきメデューサの首を掻っ切り、見事討伐に成功する。
そんな話がギリシャ神話にはある。


話をマジックに戻すと《鏡の盾》はメデューサ討伐のためにペルセウスが持っていた盾がモチーフとなっているんだ。
石化の視線(接死)から身を守り、逆に討伐(破壊)してしまうという逸話を見事に再現しているね。
また実際の神話では石化の視線を防いだだけなんだけど、後の創作ではその視線を跳ね返してメデューサ自身を石化させたとも言われている。
カードイラスト的にはこっちのイメージの方が近いかもしれないね。


f:id:teilving:20200331002401j:plain


このカードはプレインチェイスという多人数戦用に作られた次元カードというものだ。
プレインチェイスでは、プレイヤーたちがさまざまな次元にプレインズウォークし、その次元特有の効果を受けることになるんだ。
さて、この《オナッケの地下墓地》はシャンダラーという主に基本セットなどで舞台となった次元に存在する遺跡だ。
この遺跡はかつてオブ・ニクシリスに変え、リリアナに4大悪魔のうち2体を倒す力を与え、ガラクをその呪いでもって苦しめた《鎖のヴェール》と呼ばれる強力なアーティファクトが安置されていた場所だ。
そんな強力なアーティファクトがあるからか、《オナッケの地下墓地》は全てのクリーチャーは黒であり接死を持つという効果を持つ。
この接死は自らを蝕む呪いが外に漏れ出て他者すら苦しめる、そういう表れなのかもしれないね。




さて、接死についてルールや歴史、フレーバーについて見てきたけどどうだったかな。
もしこれが面白いと思ってもらえたら幸いだ。


次回は動かざること山のごとしなあのキーワード能力について見ていこう。
その日まで、あなたを死に至らしめるその恐ろしい毒牙にかかりませんように。

*1:セットに関係なくいつでも使ってよいメカニズム

*2:米村薫様の個人サイト「MJMJ.info」より2007/5/11訳版を抜粋