キーワード能力雑記:【第2回目】〜不動の障壁〜
前回からものすごく時間がたってしまった……
あらためましてキーワード能力雑記へようこそ!
この記事では毎回1つのキーワード能力に焦点を当てて色々深堀していこうと思う。
第2回となるキーワード能力は『防衛/Defender』だ。
早速定義の確認と行きたいところだけど、まずは防衛が産まれる前を見てみたいと思う。
時代は接死と同様にアルファ発売まで遡る。
マジックが産声を上げたときからクリーチャー・タイプというものは存在した。
その中でも一番多く存在したのが実は『壁/Wall』なんだ。
その数なんと10種類!!
マジックの初期では壁は基本的なクリーチャー・タイプだと認識されいたことがここから読み取れるね。
(ちなみに現在ではオラクルの変更で一番多いクリーチャー・タイプは人間/Humanの12種類なんだけど、人間/Humanというクリーチャー・タイプが登場したのはミラディン。当時はまだ人間はクリーチャー・タイプとして認められてなかったんだ)
そして、壁であるということはクリーチャー・タイプとして参照される以外にもあるゲーム上の役割があった。
それが、「壁/Wallであるクリーチャーは攻撃に参加できない」というものだ。
あれ?どこかで聞いた文面だね。
そう、これが防衛/Defenderのもとになった効果。
始めは壁に与えられた特別ルールだったんだ。
でも、現在の壁にそんなルールはないよね?
つまりどこかのタイミングでそのルールは撤廃されたんだ。
それが行われたのが神河物語発売時。
それまで壁が持っていたこのルールを防衛として一般化することで、壁による「壁ルール」独占は終焉を迎えたんだ。
これにより神河物語以前に登場していた壁(ある1種を除く)は防衛を持つようにオラクルで変更されることになった。
それじゃあそれを踏まえて今の防衛のルールを確認してみよう。
- 702.3a 防衛は常在型能力である。
- 702.3b 防衛を持つクリーチャーは攻撃に参加できない。
- 702.3c 1体のクリーチャーに複数の防衛 能力があっても意味はない。
702.3aと702.3cについては接死のときにも触れてるし省略。
その代わり、文字通り防衛の要である702.2bについて見てみよう。
702.3b 防衛を持つクリーチャーは攻撃に参加できない。
これは君のターンの攻撃クリーチャー指定ステップの開始時に防衛クリーチャーは攻撃クリーチャーとして指定できないということを表してるね。
わざわざこんな書き方をしたのは、「攻撃している状態で戦場に出る」場合で攻撃した状態の防衛クリーチャーを出すことは適正だし、攻撃している状態のクリーチャーに防衛を持たせても戦闘から取り除かれないということを強調するためだ。
また、「可能なら攻撃する」効果については防衛によって攻撃できないから無視することになるんだ。
あくまで防衛は攻撃クリーチャーステップのクリーチャーの指定にだけ関与するということ覚えておこう。
さて、防衛はルールが非常にシンプルだから防衛の意義について語ってみよう。
見てもらって分かるように防衛は基本的にデメリット能力だ。
キーワード能力は基本的にそのカードを強化するものが多い中、なぜわざわざ防衛をキーワード能力化したんだろう。
この理由について公式から言及しているソースを見つけられなかったからここからは僕の予想になる。
これは当時存在したあるクリーチャー・タイプが関係してると僕は睨んでいる。
それがレジェンド/Legendというクリーチャー・タイプだ。
このレジェンド、クリーチャー・タイプであることに加えて「戦場に同じ名前のレジェンドがいる場合、後から出てきた方を生贄に捧げる」という特別なルールを持っていた。
そう、勘のいい人は気づいたかもしれないけどこのルールが時代とともに変更され今のレジェンド・ルールへと引き継がれてきたんだ。
それでは何故壁とは関係のないレジェンドが防衛誕生に関わっていると考えるのか、それは神河物語を含む神河ブロックの主なテーマが「伝説」だったからだ。
多数の伝説のパーマネントが追加された神河物語はそれと同時にクリーチャー・タイプとしてのレジェンド/Legendを廃止してクリーチャー以外のパーマネントが持っていた「伝説の」という特殊タイプへと統合、ルールの整備が行われたんだ。
その結果、そのクリーチャー・タイプであることがそのクリーチャー・タイプである以上の意味を持つものが壁/Wallだけになった。
だから、この機会にクリーチャー・タイプにそれ以上のルールを持たせるのをやめようとキーワード化した、僕はそう思っている。
ちなみに、防衛がルールとして整備され追加されたのは既に述べたように神河物語。
だけど防衛と書かれたカードが初めて印刷されたのは次のセットである神河謀叛。
そう、神河物語には防衛と書かれたカードは1枚も収録されていないんだ。
これもキーワード化しようと思って制定したというより、ゲーム全体の統一感を生むために制定したということを表しているんじゃないかな?
さて、防衛としてキーワード化された結果、壁でない防衛持ちクリーチャーというのが登場するようになった。
一方で、壁に役割がなくなったかというとそうじゃなかった。
防衛が制定された後も着々と新たな壁は登場を続けている。
そんな壁、《霧衣の究極体/Mistform Ultimus》みたいな特殊な例を除くと全員が防衛を持っている。
これまでも、そしてこれからも壁と防衛の関係は続くんだろうなあと思わされるね。
次は防衛とカラー・パイの関係を見てみよう。
防衛は全ての色に存在していているけど、強いて言えば白や青が他に比べて多い傾向にある。
白は不必要な争いを避ける色だ。
だからこちらからは手を出さず、相手から攻めてきたときにのみ力を発揮するという姿勢を防衛で表しているんだ。
一方で青に多いのは青の理念というよりは攻撃制限を持つクリーチャーが青に多いことが理由なんじゃないかな。
また、壁との関係からアーティファクト・クリーチャーに多いのも特徴だね。
それと、防衛を付与するカードが多いのも白の特徴だ。
これらのカードは主に対戦相手のクリーチャーに使うことで攻撃から身を守ることが想定されたデザインだ。
これはデメリット能力であるという点を上手く利用しているといえるね。
ところで防衛にはアンチカードというものが存在している。
赤は防衛に対するアンチカードを多く有する色だ。
その理由は赤の理念から読み取れる。
赤は最も感情的で攻撃的な色だ。
赤がその先に進みたいと思ったなら、壁(もとい防衛)が目の前にあってもお構いなしに突き進むという姿勢が防衛を破壊・無視するというのがこの効果に表れているね。
それじゃあ防衛の特徴はこれくらいにして、今度は防衛を持つクリーチャーの方の特徴を見てみよう。
まず、防衛クリーチャーというのは通常のクリーチャーに比べてマナレシオが優れている傾向にあるんだ。
マナレシオは一般的にそのクリーチャーが持つP/Tの平均と点数で見たマナ・コストの比のことだ。
これが大きいほどそのクリーチャーは支払ったマナに対して効率がいいという指針になる。
それじゃあ例としてP/Tが3/3のクリーチャーを見てみよう。
まず防衛を持たないクリーチャーの平均マナレシオは約4.35点だ*1。
つまり3/3のクリーチャーを召喚するには4マナ強支払う必要があるということがこれでわかるね。
一方で防衛クリーチャーを見てみよう。
その平均マナレシオは2.7点。
防衛を持たないクリーチャーに比べて1マナ以上も効率がいいことがわかるね。
もちろん、今回の集計では防衛以外のテキストは無視しているし、カードの色やマナ拘束については一切考慮されていない。
そもそも防衛を持つ3/3のクリーチャーは持たないクリーチャーに比べて圧倒的に少ないから単純にマナレシオを比べてもあまり意味があるとは言えないかもしれない。
それでも防衛というデメリット能力を持つ代わりに召喚しやすいようにデザインされていることがここから見て取れると思う。
次に防衛クリーチャーはタフネス偏重のクリーチャーが多いんだ。
ほとんどの防衛持ちはパワー≦タフネスの関係が成立していて、逆にパワーの方が大きい防衛持ちは数えるほどしか存在していない。
さらに、防衛持ちクリーチャーのうち、パワーが0であるクリーチャーは全体の半数を占めるんだ。
壁から派生した経緯的に敵の攻撃から身を守る障壁というイメージを高いタフネスで再現しているんだね。
また、防衛を持つことで将来的に強力な戦力になるクリーチャーを軽いコストであらかじめ準備するといった使われ方もしている。
これは例を見た方が早いかもしれないね。
《切望するマーフォーク》は2マナでありながら3/2と優秀なマナレシオを持つクリーチャーだ。
だけど、その恵まれたマナレシオも防衛の前では相手の小型~中型クリーチャーを足止めすることしかできない。
でも《切望するマーフォーク》にはもう1つの能力があるね。
それがマナを払うことでそのターン防衛を失うことができる能力だ。
これのおかげで状況に合わせて攻撃に転じることができるんだ。
そうなると《切望するマーフォーク》は見かけ上、4マナ3/2のクリーチャーを2マナずつ分割して召喚、本来なら5ターン目からのところ3ターン目から攻撃に参加できるクリーチャーと言えなくもないよね。
もちろん攻撃したくなければ追加の2マナはいらないし2回目以降の攻撃の際も2マナ必要なことから単純に比べることはできないけど、本来ならもっと高マナ域のクリーチャーを序盤の壁として利用し、タイミングを見計らって攻めの脅威として活躍することが防衛とそれを失う過程で表現することができるんだ。
とはいえ防衛を持つことは基本的にデメリットだ。
君がデッキを組むときに防衛クリーチャーを入れたいと思う機会は少ないかもしれない。
だけどそんなデメリット能力である防衛クリーチャーを積極的に選出したくなるかもしれないカードがいくつか存在するんだ。
まず、防衛を持つことを参照するカードがいくつか存在している。
もともとクリーチャー戦や火力による除去に強い傾向にある防衛クリーチャー。
その特徴を生かして相手を足止めしている間に大量の防衛クリーチャーによるシナジーで勝利を決めるデッキを汲んでも面白いかもしれないね。
WotCは防衛というデメリット能力をメリット能力として扱えるように、防衛とシナジーを持つカードを出していこうとしていてセットによってはそれがテーマの一部になったりしているから、今後も強化パーツは増えていくと思うよ。
他にもそのタフネスの高さを生かした戦い方なんてのもある。
本来、戦闘では自身のパワーの分だけ相手にダメージを与える。
それをタフネスの値に変更してしまうカードがあるんだ。
これらのカードを使えばその圧倒的なタフネスで相手を押しつぶすことができるね。
でも、ちょっと待って!確かにタフネスでダメージを与えられるようにはなったけど攻撃できないんじゃ意味ないじゃないか!
そう思った君、安心してくれ。
そんな君のためにこんなカードが存在している。
そうこれは「防衛クリーチャーであるにもかかわらず攻撃を可能にする」という画期的なカードだ。
これによって防衛というデメリットを無視した軽くて固いクリーチャーたちが一斉攻撃すれば相手はひとたまりもないだろうね。
あっ!もう一つ重要なことがあった。
こういった一時的に防衛を無視するカードには「防衛を持たないかのように」と書かれている場合と「防衛を失う」と書かれている場合の2パターンがある。
機能的にはどっちでもよさそうに見えるけどこの2つ、実はルール的に大きな溝があるんだ。
つまり、前者は実際には防衛を失っていないということなんだ。
少し上で防衛を参照するカードについて触れたよね?
それらのカードと組み合わせたとき、もし防衛を失ってしまうと参照する防衛の数が減ってしまう。
だけど「防衛を持たないかのように」は防衛を持ったままだからそれらとシナジーを崩さないようになっているんだ。
もし防衛デッキを組むときはこの辺も考慮してデッキを組む必要があるね。
最後に前回同様防衛に関するカードについて触れていこう。
といっても既に防衛に関するカードは触れてきたから今回はスリヴァーについてだけ触れるね。
《休眠スリヴァー》が共有するのは防衛と「戦場に出たとき1ドロー」だ。
今回は防衛の記事だからもう片方の能力には触れないけど、普通に考えたらデメリット能力の共有なんていくらメリットとなるときがあるとはいっても嬉しいものじゃないよね。
でもよくテキストを見てほしい。
「すべてのスリヴァーは防衛を持つ」とあるね。
そうすべてだ。
昔のカードは自分だけでなく対戦相手のカードにまで影響を与えるカードが多かったんだ。
つまり相手がスリヴァーを使っている場合、《休眠スリヴァー》を出すことで相手を機能不全にすることができるね!
相手がスリヴァーを使ってくるかどうかなんてわかんないって?相手のクリーチャーをスリヴァーにすればあるいは…
まあ、本来はもう一方の能力を主体に採用されるだろうけどテキストは読み得だから覚えておくと意外な活躍をするかもしれないよ。
さて、防衛について色々見てきたけどどうだったかな?
もしこれが面白いと思ってもらえたら幸いだ。
次回は本来の順番よりも先にせっかちなあのキーワード能力について見ていこう。
その日まで、あなたの身を守る盾が敵からの攻撃を防いでくれますように。
*1:この集計はLvカウンター0個の第1面・非反転状態で3/3の黒枠クリーチャーを扱っている。何のことかわからない人は戦場に出てきたときに3/3であるクリーチャーくらいの認識で構わない。