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キーワード能力雑記:【第5回目】~付与される力~

キーワード能力雑記へようこそ!

この記事では毎回1つのキーワード能力に焦点を当てて色々深堀していこうと思う。
第5回となるキーワード能力は『エンチャント/Enchant』だ。

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何かについて様々な効果を付与させる能力


えっ?それはカードタイプだろって?
いやいや、これはれっきとしたキーワード能力だ。
なぜならカードタイプとしてのエンチャントは英語ではEnchantment
今回紹介するEnchantとは別物だ。

ではキーワード能力としてのエンチャント(以下エンチャント能力)はどういうものなんだろう。
この能力はある種のカードと深くかかわりがある能力だから今回はそれも一緒に見てみよう。

702.5 エンチャント/Enchant

  • 702.5a エンチャントは、「エンチャント [オブジェクトまたはプレイヤー]/Enchant [object or player]」と書かれる常在型能力である。エンチャント能力は、オーラ・呪文が対象に取れるものと、オーラがエンチャントできるものを制限する。
  • 702.5b オーラに関しては、rule 303〔エンチャント〕を参照。
  • 702.5c オーラが複数のエンチャント能力を持っている場合、それらの全てが適用される。オーラの対象は、それら全ての限定に従わなければならない。オーラは全てのエンチャント能力に適合するオブジェクトまたはプレイヤーにしかエンチャントできない。
  • 702.5d プレイヤーをエンチャントできるオーラは、プレイヤーを対象にでき、プレイヤーにつけられる。その種のオーラはパーマネントを対象にせず、パーマネントにつけられることはない。


まず初めにエンチャント能力が何者なのか見てみよう。

702.5a エンチャントは、「エンチャント [オブジェクトまたはプレイヤー]/Enchant [object or player]」と書かれる常在型能力である。エンチャント能力は、オーラ・呪文が対象に取れるものと、オーラがエンチャントできるものを制限する。

702.5b オーラに関しては、rule 303〔エンチャント〕を参照。


まず、エンチャント能力はオブジェクトかプレイヤーを指定するんだ。
そして、その指定されたものはオーラと呼ばれるものを制限すると書いてあるね。
ここで出てくるオーラが今回紹介するエンチャントと切っても切り離せない存在なんだけど、ここでは説明されていない。
その代わりにrule 303で説明しているから確認してくれとルールには書いてあるね。
それじゃあ確認してみようか。

303. エンチャント
(中略)

  • 303.4 エンチャントの中には、サブタイプとして「オーラ/Aura」を持つものがある。オーラはオブジェクトまたはプレイヤーについた状態で戦場に出る。オーラをつけることができる先は、キーワード能力「エンチャント/Enchant」によって規定されている(rule 702.5〔エンチャント〕参照)。他の効果によって、あるパーマネントをエンチャントできるかどうかに限定が加えられる場合もある。
    • 303.4a オーラ・呪文は、エンチャント能力によって規定される対象を必要とする。
    • 303.4b オーラのつけられているオブジェクトやプレイヤーのことを、「エンチャントされている」という。そのオーラはそのオブジェクトやプレイヤーを「エンチャントしている」、あるいはそのオブジェクトやプレイヤーに「ついている」という言い方をする。
    • 303.4c オーラが、エンチャント能力やその他の効果による規定に対して不正なオブジェクトまたはプレイヤー上にエンチャントしていた、あるいはエンチャントされているオブジェクトやプレイヤーがすでに存在しなくなっていた場合、そのオーラはオーナーの墓地に置かれる(これは状況起因処理である。rule 704〔状況起因処理〕参照)。
    • 303.4d オーラはそれ自身をエンチャントすることができない。何らかの理由でそうなった場合、そのオーラはオーナーの墓地に置かれる。また、オーラがクリーチャーでもある場合、他のオブジェクトをエンチャントすることができない。何らかの理由でそうなった場合、そのオーラははずれ、そしてオーナーの墓地に置かれる。(これらは状況起因処理である。rule 704 参照)。 オーラは同時に複数のオブジェクトまたはプレイヤーにつくことはない。呪文や能力の効果によってオーラが複数のオブジェクトやプレイヤーにつくような場合、そのオーラのコントローラーはどちらのオブジェクトまたはプレイヤーにつけるかを選ぶ。
    • 303.4e オーラのコントローラーは、エンチャントされているオブジェクトのコントローラーあるいはエンチャントされているプレイヤーとは別物である。この2つは同じである必要はない。オーラがオブジェクトをエンチャントしている場合、そのオブジェクトのコントローラーが変わってもオーラのコントローラーは変わらないし、逆も同様である。オーラのコントローラーのみが、それの能力を起動できる。ただし、オーラがそれにエンチャントされているオブジェクトに能力を(「得る/gains」あるいは「持つ/has」等によって)得させる場合、エンチャントされているオブジェクトのコントローラーのみが、その能力を起動できる。
    • 303.4f オーラが、オーラ・呪文が解決される以外の方法でいずれかのプレイヤーのコントロール下で戦場に出、その出す効果がオーラのエンチャント先を指定していなかった場合、そのプレイヤーがそのオーラが戦場に出るに際してそのオーラのエンチャント先を選ぶ。そのプレイヤーは、オーラのエンチャント能力その他適用される効果に従い、適正なオブジェクトまたはプレイヤーを選ばなければならない。
    • 303.4g オーラが、適正にエンチャントできるオブジェクトやプレイヤーのない状態で戦場に出る場合、そのオーラが現在スタックにあるのでない限り、現在ある領域にとどまる。スタックにある場合、そのオーラは戦場に出る代わりに オーナーの墓地に置かれる。
    • 303.4h 効果によって、オーラでも装備品でも城砦でもないパーマネントをオブジェクトまたはプレイヤーにつけた状態で戦場に出す場合、つけられていない状態で戦場に出る。
    • 303.4i 効果によってオーラを適正につけられないオブジェクトやプレイヤーにつけた状態で戦場に出す場合、元あった領域がスタックでなければ、オーラは元あった領域に残る。スタックであれば、戦場に出る代わりに オーナーの墓地に置かれる。オーラがトークンであれば、それは生成されない。
    • 303.4j 効果によって戦場にあるオーラをオブジェクトやプレイヤーにつける場合、そのオブジェクトやプレイヤーが適正にエンチャントされることができなければ、オーラは移動しない。
    • 303.4k 効果によって表向きになるオーラがオブジェクトやプレイヤーにつけられた状態になる場合、そのオーラのコントローラーはそれが表向きで存在している場合のそのオーラの特性を用いて何につけることができるかを判断し、そのオーラの持つエンチャント能力やその他の適用されうる効果に従って適正なオブジェクトを選ばなければならない。
    • 303.4m パーマネントの「エンチャントしている[オブジェクトまたはプレイヤー]/enchanted [object or player]」を参照する能力は、そのパーマネントがオーラでなかったとしても、そのパーマネントがつけられているオブジェクトまたはプレイヤーを参照する。


一応オーラに関係する部分を全文書き出したけど、たくさんのルールがあって全部読むのは大変だよね。
興味のある人は読んでもらって構わないけど、この記事はキーワード能力が主役だから「オーラはエンチャントの1種であり、何かについている状態でしか戦場に出ることができない」「オーラが何かしらについているという関係を『エンチャントしている/されている』または単に『ついている』という」「エンチャントされているものがエンチャントで指定されたもの以外に変わった場合、そのオーラは墓地に置かれる」の3つを覚えてもらえれば十分だ。

つまりエンチャント能力は、オーラを唱えるために対象に取るべき存在や実際に戦場に出た時に何にエンチャントするべきなのかを紐づけてあげる能力だということがわかるね。



702.5c オーラが複数のエンチャント能力を持っている場合、それらの全てが適用される。オーラの対象は、それら全ての限定に従わなければならない。オーラは全てのエンチャント能力に適合するオブジェクトまたはプレイヤーにしかエンチャントできない。


ここで示しているのは1つのオーラが複数のエンチャント能力を持った時の挙動についてだ。
要約すると「持っているエンチャント能力が示すオブジェクトの制限をすべて満たしたものにしかエンチャントできない」ということだね。
例えばだけど、エンチャント(クリーチャー)とエンチャント(アーティファクト)をもつオーラがあったとしたら、それはアーティファクト・クリーチャーにしかつけることができないということを表しているんだ。
また、エンチャント(パーマネント)とエンチャント(クリーチャー)を持つ場合はより範囲の狭いエンチャント(クリーチャー)を持つことと同じだとわかるね。

ところで現状、追加でエンチャント能力を与えるようなカードは存在していないんだ*1
このルールは一見無意味に思うかもしれないけど、事前にルールの穴をふさいでおくことで将来的にそのようなカードが作られた時に対処できるようにしているんだね。

02.5d プレイヤーをエンチャントできるオーラは、プレイヤーを対象にでき、プレイヤーにつけられる。その種のオーラはパーマネントを対象にせず、パーマネントにつけられることはない。


エンチャント能力はオブジェクト以外にもプレイヤーを指定できるということが書いてあったね。
ここではプレイヤーにつくタイプのオーラについて言及しているんだ。


さて、次はエンチャント能力の歴史についてだけど、エンチャント能力の歴史はオーラの歴史とともにあるんだ。
マジックの黎明期からクリーチャーについてそのクリーチャーを強化するエンチャントは存在した。
ただし、今とは呼ばれ方が違ったんだ。

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第4版の《聖なる力》


現在とはタイプ行が違うことがわかるかな?
このころは現在のエンチャント能力が担っている仕事をタイプ行で行っていたんだ。
こういったエンチャントを『個別エンチャント/Local Enchantment』と呼んでいたんだ。(反対に何にもつかず場に残り続けるエンチャントは『全体エンチャント/Global Enchantment』と呼ばれていた)

これでも何の問題もなさそうだけど当時のルールマネージャーは気にくわない点が4つあると主張していたんだ。*2
順に確認していこう。

1つ目はタイプ行が仕事をしていないということだ。
これがどういうことかというと、クリーチャーにはクリーチャー、アーティファクトにはアーティファクトとタイプ行に書かれているから僕たちはそれがそうだと判断できるわけだね。
ただしエンチャントはそうもいかなかったんだ。
個別エンチャントには「エンチャント([何か])/Enchant [何か]」、全体エンチャントには「エンチャント(場)/Enchantment」と書かれていて統一されていなかったんだ。
例えば「Artifact Creature」と書かれていればそれはArtifactでありCreatureあることがわかるね。
だけど「Enchant Creature」はCreatureでないことはもちろんEnchantでもないんだ。
逆に書かれていないけどこれはEnchantmentとして扱っていたんだ。
これでは「Enchant Creature」が何なのかタイプ行見ただけではわからないよね。
しかもこのカードは当時のルールだと「Enchant Creature」というサブタイプを持っているという扱いだったんだね。
これは非常にわかりづらいよね。
オーラを導入することでこれが「Enchantment - Aura」と記載されることになるから、これがEnchantmentというグループのAuraという種類のカード群であることが明確になったんだ。


2つ目に個別エンチャントは、テキストに『対象』と書かれていない唯一の対象を取る呪文であるという問題があったらしいんだ。
これについては僕もよくわかっていないところが多いから調べたことを書こうと思う。
上記にある第4版の《聖なる力》を見てもらったら分かるようにテキストにはしっかりと「対象」と書かれているよね。
ところが第8版の《聖なる力》を見てみるとたしかに「対象」とは書かれなくなっているんだ。

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第8版の《聖なる力》


どうやらホームランドとアライアンスの間で個別エンチャントのテキストに「対象」と書かれなくなったらしい。

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左がホームランドの《一角獣の饗宴》、右がアライアンスの《Viscerid Armor》


個別エンチャントのテキストに関するルール変更がこの頃にあったんだろうことは予想できるけど、如何せん1995~96年の話だから詳しいことはよくわからなかった。
ただ少なくともオーラ導入前夜では個別エンチャントは対象を取る呪文でありながら「対象」と書かれていないカードになっていたんだ。
この問題はオーラを導入し、エンチャントできるものの定義をキーワード能力にすると解決されるんだ。

唐突だけどキーワード能力の後にかっこ書きでそのキーワード能力を詳しく説明している文章を見たことがある人も多いんじゃないかな。
そういった文章を注釈文といって基本セットや低いレアリティのカードのような初心者が目にする機会が多いカードにはあえて注釈文を添えることでその用語が何をするのかわかりやすくするという手法があるんだ。

オーラとエンチャント能力を導入することで必要な場面では注釈文を添えることができるようになったんだ。
そしてそこにはしっかりと「対象」と書くことができるようになったんだ。

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第9版の《聖なる力》


こうすることで初心者に対してエンチャント能力を持つカードは対象を取るということが明確になったね。
一方で注釈文はルール的には何の意味も持っていないんだ。
だからオーラを見ただけでそれが対象を取るカードだと理解できる既存プレイヤー向けのカードではわざわざ注釈文を用意しなくてもいいよね。
このように必要な場面に応じてテキストを使い分けられるようになった点もオーラ導入のメリットだ。


3つ目はタイプ行にルールが紛れているという問題だ。
防衛について紹介した時に壁というクリーチャー・タイプがルール上特別な意味を持っていたというのがあったね。
これと同じ問題を個別エンチャントは抱えていたんだ。
壁が持っていた「壁は攻撃できない」というルールが壁から切り離されて防衛となったように個別エンチャントが持っていた「エンチャントできるものを指定する」役割はエンチャントに移行することでタイプ行の整理が進んだんだ。


4つ目にそもそも「個別エンチャント」や「全体エンチャント」を参照するようなテキストのカードがほとんど存在しなかったということが挙げられているね。
つまり当時のユーザはそれが個別なのか全体なのか意識してプレイする必要が特になかったということがいえるね。
使われていない用語を廃止して今までとルール上ほとんど変わらない新たな用語に置き換えるだけならほとんど混乱は生まれないよね。


これらの理由を見てみるとルールとタイプが絡み合っていた使いづらくわかりづらい用語を廃止するために生み出されたのがオーラとエンチャント能力というわけだね。
マジックの歴史は何度もルール改定が行われてきたんだけどそれはより分かりやすくより簡潔にゲームを楽しめるようにというWotCの努力があったわけだ。

と、すべてうまくいったように書いてはいるがもちろんルールが変わったことで過去のカードが若干の強化・弱体を受けることになったんだ。
何故カードの挙動が変わってしまうのかはいったん置いといて実際にどう変わったのかを見てみよう。

まず強化されたカードが《篤信の魔除け》だ。

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このカードが持つモードの1つに「エンチャント(クリーチャー)1つを対象とし、それを破壊する。」とあるね。
これは現在「クリーチャーにつけられているオーラ1つを対象とし、それを破壊する。」というテキストに変更されているんだ。
この変更によってクリーチャーにつけられているエンチャント(パーマネント)を持っているオーラが破壊できるようになったんだ。

これと同じように《アカデミーの研究者》や《Bartel Runeaxe》、《真心のハープ奏者》など様々なカードが微妙にだけど強化を受けたんだ。

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若干の強化を受けた皆さん


一方残念ながら弱体化してしまったカードたちはこちら。

その1つが《脂火玉》だ。

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Tallowisp / 脂火玉 (1)(白)
クリーチャー — スピリット(Spirit)
あなたがスピリット(Spirit)か秘儀(Arcane)呪文を唱えるたび、あなたはあなたのライブラリーからエンチャント(クリーチャー)を持つオーラ(Aura)・カードを1枚探し、それを公開し、あなたの手札に加えてもよい。そうした場合、あなたのライブラリーを切り直す。
1/3


《脂火玉》はこのルール改定で自身の能力でサーチできるカードが「エンチャント(クリーチャー)を持つオーラ・カード」になったんだ。
それによってサーチできなくなってしまったカードが生まれたんだね。
それが《珊瑚の網》のようなカードだ。

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このカードは現在のルールだとこうなっている。

Coral Net / 珊瑚の網 (青)
エンチャント — オーラ(Aura)
エンチャント(緑か白のクリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは「あなたのアップキープの開始時に、あなたがカードを1枚捨てないかぎり、このクリーチャーを生け贄に捧げる。」を持つ。


そう、元々のカードではエンチャント(クリーチャー)のサブタイプを持つエンチャントできるクリーチャーに条件があるカードであったのが、ルール改定でオーラのサブタイプを持つエンチャント(緑か白のクリーチャー)を持つカードになったんだ。
これは《脂火玉》がサーチできる「エンチャント(クリーチャー)を持つオーラ・カード」ではないよね。
だから《脂火玉》は《珊瑚の網》をサーチすることができなくなってしまったんだ。

他にも《ルートウォーターのシャーマン》も同じような理由でインスタントタイミングで唱えられるオーラの幅が狭くなってしまったんだ。

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このようにルール改定では必ず微妙にではあるけど既存カードのカードパワーの変化が伴ってしまうんだ。
それでもその変化を最小限に抑えながらより遊びやすいよう進歩していっているんだね。


さて、エンチャント能力が生まれた経緯、そしてそれによって起きた変化について見てきたね。
次はエンチャントが持つフレーバーについて確認してみよう。

まずエンチャント能力はオーラを制定する過程で生まれたことを確認したね。
つまり機能上必要だから作り出されたキーワード能力だと言えるね。
そしてオーラが色の理念とは関係なしに全色であるようにエンチャント能力も特定の色に依存した能力ではないんだ。
このようにキーワード能力は必ずしもカラーパイと関連付けられているというわけではなく、ゲーム上必要な処理を簡潔に表現するという役割もあるんだ。

次に名前だ。
英語版ではカードタイプの方はEnchantment、キーワード能力の方はEnchantと特に問題はないんだけど、日本語版ではカードタイプとキーワード能力でエンチャントという用語がかぶってしまっているという問題があるんだ。
そこで英語版のEnchantmentとEnchantの違いについて調べてみよう。
Enchantmentは「魔法にかけること、魅力」といった名詞で、Enchantは「魔法をかける、魅了する」といった動詞だ。
カードタイプの方はカードの分類だから名詞、キーワード能力の方はEnchant ○○で「○○に魔法をかける」といった文になるから動詞が使われているんだろう。

この問題は日本語版だけの問題なのかな?

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今回は《霊気トンネル》で検証してみた
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左上から英語版、スペイン語版、フランス語版、ドイツ語版、イタリア語版、ポルトガル語版、韓国語版、ロシア語版、簡体字版、繁体字


全部区別されてるじゃないか。
どうやらこの問題は日本語版だけのものらしい。
他の言語では英語版同様カードタイプは名詞、キーワード能力は動詞として訳しているみたいだ。
翻訳が同じになってしまった理由は全体エンチャント(Enchantment)をエンチャント(場)、個別エンチャント(Enchant ○○)をエンチャント(○○)と訳してきたときからの名残だろうと僕は思う。
明確に訳し分けるならばカードタイプの方を「エンチャントメント」、キーワード能力の方を「エンチャント」とするか簡体字/繁体字版みたいに二字熟語でキーワード能力を制定すればよかったかもしれない。
まあ英語版でもマーカーとしてのcounterと打消しのcounter、敗北のloseと失うのloseとか重複している用語がいくつかあるし、わざわざこんな記事を書かなければ困るようなこともないのかもしれない。


最後にエンチャント能力に関するカードについて紹介するね。


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まず呪いと呼ばれるカード群だ。
呪いはエンチャントのサブタイプの1つだけど、オーラと違って呪い自体が何か特別なルールを持つわけじゃないんだ。
呪いは全てエンチャント(プレイヤー)を持つオーラで、名前の通りつけられたプレイヤーに対して何らかの不利益がもたらされるデザインをしているんだ。

呪いが初登場したイニストラードはゴシックホラーの世界、再登場したアモンケットはエジプト風の世界でどちらも呪いや呪術のイメージにぴったりだね。
あと呪いは一応全色に存在しているんだけど、黒が一番多くて12枚、次いで赤の6枚、青の5枚、白の4枚と続いて緑に至っては2枚しか存在しないんだ。
禁忌とされる力でも使えるものは使う黒とその対抗色であり運命を捻じ曲げることを嫌う緑といったカラーパイがここで表現されていて、その点においてもフレーバーにあふれているね。

そういったフレーバーに富んでいる呪いはユーザから好評で、落葉樹*3カニズムとしてこれからも呪いが使える機会を増やそうと考えているらしい。
呪いファンにとっては朗報だね。

mtg-jp.com


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次に紹介するカード群も呪いと同じでエンチャントのサブタイプを持つカード群だ。
その名もカルトーシュ
カルトーシュはさっき呪いの紹介の時にも出たアモンケット次元だ。
この次元には神が存在していて、その神々が与える試練をクリアした称号としてもらえるのがこのカルト―シュなんだ。

ところでカルトーシュと当たり前に呼んでるけどこれっていったい何なんだろう?
調べてみると古代エジプトで王の名前を囲うための装飾を指すフランス語らしい。
要は装飾品の一種ということなんだろうけど、アモンケット次元では試練をクリアした勲章やミイラに対する命令装置を指してカルトーシュと呼んでいるみたいだね。
エジプトを舞台にしたアモンケットに登場するアイテムとして筋が通っているね。

さて、メカニズム的な話になるとカルトーシュは全てエンチャント(あなたがコントロールするクリーチャー)を持つオーラだ。
そしてエンチャントしているクリーチャーの強化とは別に戦場に出た時にも恩恵を授けてくれるデザインになっているね。
これは試練をクリアした褒章と捉えることができるかな。
そしてカルトーシュがなぜわざわざサブタイプとして扱われているかを示すエンチャントのサイクルとして試練サイクルがあるんだ。


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試練サイクルのカードは戦場に出た時にしか効果のないエンチャントで一種のソーサリーのような扱いだけど、カルトーシュが出たことに誘発して手札に戻ることができるんだ。
これによって試練をもう一度起こすことができるんだね。
まず試練が与えられて、それをクリアした証としてカルトーシュが与えられ、そして試練は手札に戻りまた次の試練を与える準備に入るといった流れを忠実に表していてよいサイクルだと思うよ。


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次は未来予知から《新たな精力》と《流動石の抱擁》だ。
この2枚はエンチャントでありながらタップ能力を持つという変わった奴らだ。
未来予知にはこの2つとオーラではないエンチャントとして《魔女の霧》の3枚がタップ能力を持つエンチャントとして収録されている。

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これだけはオーラじゃない


WotCアーティファクトと差別化するためにエンチャントの特徴は有色でタップ能力を持たないことと認識しているらしい*4のでこれは未来予知というマジックのあり得る/ありえない未来を垣間見るという特殊なセットだからこそ成り立ったカードだと言えるね。
ちなみにエンチャントだから戦場に出したターンにタップ能力を使うことができる。
アーティファクトと同じだと覚えておこう。

さて、このカードたちの特殊性に触れたところで個別に見てみようか。

《新たな精力》は自信をタップすることでエンチャントしているクリーチャーをタップ/アンタップができるオーラだ。
その効果は《現実からの遊離》を彷彿とさせるね。

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こちらはタップ能力ではなく青マナをコストとする


普通に使うなら自分のクリーチャーにつけてタップ能力を使いまわしたり攻撃したクリーチャーをアンタップさせてブロッカーにも使えるようにするとかがいいかもしれない。
もしくは相手クリーチャーにつけてタップし続けることで疑似的に攻撃不能にするという使い方も考えられるね。
コンボ的には《キオーラの追随者》につけるとお互いを無限にアンタップし合うから何かしら悪いことができそうだ。

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エンチャントもアンタップできるのは何気に強み


思いつくところだと《催眠の宝珠》で自分のデッキを全て墓地に送る、《水流を読む者》で無限ライフ、《航跡の打破者》を無限パンプアップなんかが考えられるけど強いかどうかは知らない。


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次に《流動石の抱擁》はタップすることでエンチャントしているクリーチャーに+2/-2の修整を与えることができるオーラだ。
類似のカード、《炎の供犠》と比べると1マナ重い代わりにエンチャント先のクリーチャーのサイズが小さくてもとりあえずつけて強化してから起動することができるようになっている。

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こちらはつけた瞬間に修正が入る


このカードも《新たな精力》同様クリーチャー強化と除去どちらにも使える柔軟性が持ち味と言えるね。

フレーバーの話に移ると名前にある流動石は暗黒次元とも呼ばれるファイレクシアの軍勢がドミナリアに攻めるために作った人工次元ラースを構成する物質だ。
流動石は必要に応じてあらゆる形へと変形させることができる物質で、ラースには地形や建物、果ては生物までもが流動石で構成されているんだ。

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流動石を名前に含むカードたち


そしてカードを見てもらうと分かるように多くの流動石を名前に含むカードはアーティファクトか赤を含む多色でタフネスを下げその分パワーを上げるといったパンプアップ能力を持っているんだ。
そして《流動石の抱擁》に戻ると、これらの過去のカードが持つ特徴を受け継いでいるね。


次に紹介するカードたちはエンチャント能力の対象が変なカードたちだ。
一気に見ていこう。


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変なエンチャント先その1は《動く死体》と《Dance of the Dead》だ。
この2枚がエンチャントするのは墓地にあるクリーチャー・カード
イメージとしてはどちらも墓地にある死体が急に動き出すといった感じだけど、そのためのゲーム的な処理はとても複雑なんだ。

例として《動く死体》の方で見てみよう。
まず、《動く死体》が戦場に出た時は墓地にあるクリーチャー・カードをエンチャントした状態だ。
そして戦場に出た時の能力が誘発してエンチャント(墓地にあるクリーチャー・カード)を失い、代わりにエンチャント(動く死体によって戦場に出されたクリーチャー)を得るんだ。
それと同時に《動く死体》にエンチャントされていた墓地にあるクリーチャー・カードは戦場に戻り、新しくエンチャント能力を持った《動く死体》がつき、一連の流れが処理されるんだ。

ここで大事なのはエンチャント能力を得る/失う効果とクリーチャーをリアニメイトする効果は1つの誘発型能力の処理として行われる点だ。
もし戦場に出た時の誘発型能力が打ち消された場合、エンチャント能力は変わらず、エンチャントしているクリーチャー・カードも移動しないから《動く死体》はエンチャントしているクリーチャー・カードが墓地から移動しない限り戦場に残り続けるんだ。
かなり奇妙な状況だね。

それと《動く死体》が戦場に出た時の能力を解決する前に壊された場合はどうだろう。
これには誘発の条件として「それが戦場にある場合」という文言があるから一瞬たりともエンチャントしていたクリーチャーが戦場に出ることはないんだ。
オーラの力がないのに一瞬だけ動き出す死体はかなり不自然だから当然そうなっていてほしいわけだけど、この文言はカードが意図する直感的な挙動をするためにあるんだね。

さて、カードが持つフレーバーを再現するためにかなり複雑な処理をしていることが分かったところでこれらのカードは過去何度もエラッタが出されてきて現在の形に落ち着いたんだ。
エラッタはカードテキストの誤りからルール変更に基づくもの、強すぎるから弱体化させるといったものまで様々な理由でカードのテキスト自体が変更されることを言うんだ。
これらのカードがエラッタされる前のテキストを見てなぜエラッタされたのか、また《動く死体》を見て考えてみよう。

動く死体/Animate Dead (1)(黒)
エンチャント
動く死体が場に出たとき、墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とする。動く死体が場にある場合、動く死体はエンチャント(クリーチャー)を持つオーラになる。そのクリーチャー・カードをあなたのコントロール下で場に出し、動く死体をそれにつける。
エンチャントされているクリーチャーは-1/-0の修整を受ける。
動く死体が場を離れたとき、エンチャントされているクリーチャーを破壊する。それは再生できない。

一番驚くのはエラッタ前はそもそもオーラじゃなかったという点だね。
これは何度も何度もエラッタされてきた結果で、一番最初に印刷された時はエンチャント(死んだクリーチャー)/Enchant Dead Creatureである個別エンチャントだったんだ。
わざわざオーラ(個別エンチャント)でなくなった後に再びオーラに戻ったところを見ると、オーラを参照するカードに参照されず、印刷時の挙動と変わってしまっていたのを元に戻そうとしたと推測できるね。

そしてもう1つの違いが《動く死体》が外れた時の挙動だ。
《動く死体》はエンチャントしているクリーチャーから外れるとそのクリーチャーは動かなくなり再び墓地に戻るわけなんだけど、エラッタ前はこれが破れてしまっていたんだ。
それが起きるのは戦場に出た時に対象に取ったクリーチャー・カードは対象として適正だけど、いざ戦場に戻ってみたらオーラの対象としては不適正だった場合だ。
そうなると《動く死体》は適正なオブジェクトについていないオーラということで墓地に行くわけだけど、この時墓地から戻ってきたクリーチャーには一瞬たりともエンチャントしていないから「エンチャントされているクリーチャーを破壊する」の部分が起きず、結果《動く死体》のついていないクリーチャーが元気に戦場に残り続けてしまうんだ。
現在のエラッタ適用後だと《動く死体》が戦場に出た時の能力に《動く死体》が戦場を離れたら墓地から戻ってきたクリーチャーも生け贄に捧げることが組み込まれたからおかしな挙動をすることはなくなったんだ。


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変なエンチャント先その2は銀枠に移って《Animete Library》だ。
死体が動くんならライブラリーが動いてもいいじゃないかということでこいつが持つのはエンチャント(あなたのライブラリー)だ。
ライブラリーは手札や戦場と同じく領域の名前だからそれにエンチャントってどういうことだよと思うかもしれないけど銀枠だからその辺はスルーだ。
ライブラリーが動き出すと、それは残りの枚数だけのP/Tを持つクリーチャーとして暴れだすといったデザインをしているね。
毎ターンのドローで少しずつサイズダウンしてしまうけど、基本的に20/20以上はあるだろうから1回殴れればゲームを決められるだけのパワーを秘めているね。
ところでクリーチャーとなったライブラリーが破壊されてしまったらどうなるんだろう。
正解は代わりに《Animete Library》が追放されて元の動かないライブラリーに戻るだ。
さすがに銀枠といえどもライブラリー破壊()は許されなかったみたいだ。
あと仮に君の大切なライブラリーのコントロールを奪われてしまったりしても安心だ。
それは変わらず君のライブラリーとしてカードを引くことができるぞ!(その前に殴られて死んでしまうかもだけど)

ちなみにフレーバー・テキストは以下の通りだ。

Sometimes the books hit back.

直訳すると「しばしば本が殴り返してくる。」となる。
イラストでもわかるように書庫が急に動き出して殴り掛かってくるといったカードの持つ効果にぴったりなフレーバー・テキストだ。
それとこのフレーバー・テキストにある「the books hit back」の部分は英語表現の1つ「hit the book(猛勉強する)」とかかった言葉遊びになっているんだ。
銀枠のカードはカード名やフレーバー・テキストでこういった言葉遊びが多く使われていて調べてみると面白いよ。

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変なエンチャント先その3は黒枠の世界に戻ってきて《呪文織りの渦巻》だ。
このカードは《動く死体》や《Dance of the Dead》同様墓地にあるカードにエンチャントするカードだ。
これがエンチャントするのは墓地のインスタント・カードだね。
それらとの違いはこれは正真正銘墓地にあるカードにエンチャントし続けることだ。
しかも一度エンチャントしたあとに別のカードにエンチャント先が変わる点も他のオーラにはあまりない効果だね。

効果は自分がソーサリーを唱えるたびにエンチャントしているインスタントのコピーを作れるというものだ。
一度コピーしたインスタントは追放されてしまうから何度も使いまわすことはできないけど、コストの踏み倒しができる点、相手の墓地のインスタント・カードもエンチャントできる点はなかなか強力だ。
しかも一度このカードが戦場に出れば、エンチャントしているカードが墓地から移動したりコピーを作った後に墓地に他のインスタント・カードがなかったりして墓地に落ちない限りアドバンテージを稼ぎ続けてくれるところも魅力的だね。
一方で誘発条件が自分がソーサリーを唱えると狭いところや打消しみたいなカードはコピーしても基本的には意味がないところには注意が必要だね。

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変なエンチャント先その4はR&D Playtest cardから《Soulmates》だ。
なんとも可愛らしいイラストだけど、こいつはこれまでのカードとは一線を画すほど変なエンチャント先を持っている。
それはエンチャント(2体のクリーチャー)
……流石テストカードだ。
これまでに紹介したカードと比べてもなかなかに突飛なエンチャント先を持っているね。
これがエンチャントされている2体のクリーチャーはともに+1/+1修正とhexproof*5を得、片方が死ぬともう片方も死んでしまうといったカードになっている。
カード名の通り、運命の相手と一蓮托生になれるわけだ。

ところでエンチャント(2体のクリーチャー)はルール的にはどうなっているんだろう。
現状は以下のルールを破っているように見える。

  • 303.4d オーラはそれ自身をエンチャントすることができない。何らかの理由でそうなった場合、そのオーラはオーナーの墓地に置かれる。また、オーラがクリーチャーでもある場合、他のオブジェクトをエンチャントすることができない。何らかの理由でそうなった場合、そのオーラははずれ、そしてオーナーの墓地に置かれる。(これらは状況起因処理である。rule 704 参照)。 オーラは同時に複数のオブジェクトまたはプレイヤーにつくことはない。呪文や能力の効果によってオーラが複数のオブジェクトやプレイヤーにつくような場合、そのオーラのコントローラーはどちらのオブジェクトまたはプレイヤーにつけるかを選ぶ。

もしこのカードが黒枠として実際に印刷に至ったらこのルールを改正することになるのかもしれないけど、リリースノートを確認してみるとこう書かれていた。

Soulmates
2G
Enchantment — Aura
Enchant two creatures
Enchanted creatures each get +1/+1 and have hexproof.
When one of the enchanted creatures dies, destroy the other.

  • If one of the target creatures becomes an illegal target while Soulmates is on the stack, Soulmates resolves but doesn't enter the battlefield because its enchant ability won't be satisfied. If both targets are illegal, it doesn't resolve at all. In both of these cases, it's put directly into its owner's graveyard from the stack.
  • If one of the enchanted creatures leaves the battlefield without dying, Soulmates is put into its owner's graveyard but the other creature won't be destroyed. The same is true if one of the enchanted creatures can't legally be enchanted by Soulmates (perhaps because it gained protection from enchantments or it's no longer a creature).

magic.wizards.com

エンチャント能力についての注釈は1つ目に書かれている。
翻訳してみると、《Soulmates》を唱えている間に対象に取った2体のクリーチャーのうち、片方が不正な対象になっていた場合は解決されるけど戦場には出ず(=オーラのルール303.4gによって墓地に置かれる)、両方とも不正な対象になっていた場合は解決されない(=解決されなかった呪文は墓地に置かれる)とある。
要は2体のクリーチャーとも適正な対象であるときに限り《Soulmates》になれるということだね。

ちなみに2つ目の注釈には「片方が死んだときもう片方も死ぬ」効果についてのものが書かれていて、《Soulmates》がエンチャントされている片方のクリーチャーが手札や追放領域などの墓地以外の領域に移動した場合は《Soulmates》は墓地に落ちるけどもう片方のクリーチャーは戦場に残るといったことが書かれているんだ。
さすがに死ぬときも一緒と誓った相手とはいえ農場に行った相手を追って自分も一緒に鍬を握るわけではないみたいだね。

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農場には運命の人も来てくれない


R&D Playtest cardのカードを紹介したからもう1つ触れておくと、R&D Playtest cardの中に《Enchantmentize》というカードがある。

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これはクリーチャーかエンチャントにエンチャントしてそれを名前の通りエンチャント化させるカードだ。
クリーチャーを失わせるというところは少しだけ奇抜だけど、よくある疑似的な除去とほぼ同じカードをわざわざ紹介したのはとあるカードが関係しているんだ。

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《Enchantmentize》をもとにしたと思われるカード


そのカードがテーロス還魂記で印刷された《星々とあるもの》だ。
効果は《Enchantmentize》と同じところを見ると、R&D Playtest cardの中には本当に将来のセットに向けたテストカードが入っているんだということがわかるね。


長くなってしまったけど次が最後に紹介したいカードたちだ。
それはそのあまりの複雑さに存在をなかったことにしようとジョークが飛ばされたカードたちだ。
それがこいつらだ!


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エンチャント能力の紹介でクリーチャーを紹介するなんてと思うかもしれないが、こいつらもれっきとしたオーラだ。
ただしそれはこいつらが持つ起動型能力を使ったときに限りだが。

こいつらはリシドというクリーチャー・タイプを持つカード群で、イラストに描かれているなめくじのような軟体生物が本体だ。
リシドたちはみなマナを払って自身をタップすることで、対象に取ったクリーチャーにつくオーラへと変形するという能力を持っている。
そしてその能力の中にマナを払うとエンチャントしているクリーチャーから外れ再びクリーチャーに戻ることができることも含まれているんだ。

イメージとしては宿主に寄生して操り、不要となったら宿主から抜け出すといった感じだろうけど、これをルールで整備するのは非常に難しいんだ。

現在のルールでは能力を起動すると、クリーチャーであることを失い、代わりにエンチャント(クリーチャー)を持つオーラ・エンチャントとなる。
そして、対象に取ったクリーチャーへとエンチャントされ、以降コストを払いこの効果を終了させるまでは普通のオーラとしてふるまうんだ。
ここまではまだ変わったカードだで済むんだけど、ややこしいことがいくつかあるんだ。

まずこの「コストを払いこの効果を終了する」という能力だ。
この効果を終了するとは要はエンチャントしているクリーチャーから外れ、エンチャント(クリーチャー)とオーラ・エンチャントを失い再びリシド・クリーチャーに戻るということだ。
この一連の流れは「特別な処理」と呼ばれていてスタックを用いずに解決されるんだ。
簡単に言えば土地をプレイしたりマナ能力を起動したりする際に対応できないように、このオーラをリシドに戻そうとマナを払い始めた段階で対戦相手は邪魔をすることができないということだ。

次にオーラになる能力を自分自身を対象にした場合はどうなるだろう。
その答えはオーラのルールを確認するとわかる。

  • 303.4c オーラが、エンチャント能力やその他の効果による規定に対して不正なオブジェクトまたはプレイヤー上にエンチャントしていた、あるいはエンチャントされているオブジェクトやプレイヤーがすでに存在しなくなっていた場合、そのオーラはオーナーの墓地に置かれる(これは状況起因処理である。rule 704〔状況起因処理〕参照)。
  • 303.4d オーラはそれ自身をエンチャントすることができない。何らかの理由でそうなった場合、そのオーラはオーナーの墓地に置かれる。また、オーラがクリーチャーでもある場合、他のオブジェクトをエンチャントすることができない。何らかの理由でそうなった場合、そのオーラははずれ、そしてオーナーの墓地に置かれる。(これらは状況起因処理である。rule 704 参照)。 オーラは同時に複数のオブジェクトまたはプレイヤーにつくことはない。呪文や能力の効果によってオーラが複数のオブジェクトやプレイヤーにつくような場合、そのオーラのコントローラーはどちらのオブジェクトまたはプレイヤーにつけるかを選ぶ。

つまりリシドは寄生態勢にはなるけど自分自身には寄生できずに死んでしまうといことだ。

最後にかなりややこしいけど、リシドをコピーした場合のことを考えてみよう。
マジックにはコピーするクリーチャーをころころ変えられるものがいる。
例えば《謎の原形質》がそれだ。

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アップキープのたびに他のクリーチャーのコピーになれる


こいつがリシドになってオーラになる能力を起動し、次のアップキープにリシドではない何かにコピー先を移した場合どういう挙動をするんだろう。
順を追って確認してみよう。

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上の図のように《謎の原形質》が《異形化するリシド》のコピーになり、自身が持つ能力で《灰色熊》にエンチャントした場合、元《謎の原形質》と《灰色熊》はこうなるよね。

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元《謎の原形質》は「アップキープの開始時に別のクリーチャーのコピーになれる」ことを除いて完全に《異形化するリシド》として振る舞い、《灰色熊》はその恩恵にあずかってアーティファクトのタイプと+1/+1の修整を得る。
ここまではいいけど、じゃあ次のアップキープの開始時に元《謎の原形質》であるオーラ状態の《異形化するリシド》が別のクリーチャーのコピーになるとどうなるんだろう。

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例として《チフス鼠》になると仮定


するとこういう状態になるんだ。

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元《謎の原形質》は今は《チフス鼠》だから基本的には《チフス鼠》と同じテキストを持つはずだ。
だけど、《異形化するリシド》の時に起動した「コストを払って終了させるまでオーラになる」という効果はまだ継続中だから、この《チフス鼠》はエンチャント(クリーチャー)を持つオーラ・エンチャントととして扱うんだ。
だから元《謎の原形質》は《灰色熊》についたままだけど、《異形化するリシド》が持っていた「エンチャントされているクリーチャーは+1/+1の修整を受けるとともに、それの他のタイプに加えてアーティファクトである。」というテキストは失われ、《灰色熊》に対して何の修正も与えないんだ*6

ところで同じ理由で元《謎の原形質》は《異形化するリシド》でなくなった後でも「コストを払ってクリーチャーに戻る」ことが可能なんだ。
その場合はもちろん現在コピーしているクリーチャーである《チフス鼠》に戻る。

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ちなみに《灰色熊》についている《異形化するリシド》のコピーである《謎の原形質》が別のリシドのコピーになることを選んだ場合は、《チフス鼠》の理由と同様のことが起き、そのリシドが持っている「エンチャントされているクリーチャーに修正を与える」能力を持つから《灰色熊》は新たに修正を受けることになるね。

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リシドからリシドへコピーすると…
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コピー後のリシドの能力をついているクリーチャーに与える


ここまではクリーチャーのコピーとなるカードについて整理してみた。
そしてもちろんエンチャントのコピーになれるカードもマジックには存在している。

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エンチャントのコピーになるエンチャント


《エンチャント複製》がオーラになったリシドのコピーになった場合はどうなるんだろう。

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結論を言うと、《エンチャント複製》はリシドのクリーチャーとしての特性を持って戦場に出るんだ。

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これは「オーラになる」能力を戦場に出たばかりの《エンチャント複製》はまだ起動していないからなんだ。
その結果、エンチャントではない元《エンチャント複製》という奇妙なものが誕生することになるんだ(リシド自体が奇妙だって?)


さて、様々な状況を見てきたわけだけど、これ以外にもルール的に複雑なリシドたちはルールマネージャーの頭を悩ませ、ついには「リシドなんか存在しない」という冒頭のジョークを生んだというわけだ。
やりたいことのイメージがわかりやすいこととルール的にわかりやすいことは別だということがリシドを見るとわかるね。



ここまで長々とお付き合いいただきありがとう。
今回はエンチャント能力からオーラが生まれた経緯、ルール的な話に関連カードの話と紹介したいものが多すぎてかなりの文字数になってしまった。

次回はオーラとはまた違った方法でクリーチャーを強化するあの能力だ。
その日まで、あなたが不運に魅了されず幸運の加護にありつけますように。

*1:オーラでないカードが後からオーラになり、その際にエンチャントを得るカードや持っているエンチャントを失って新たなエンチャントを得るカードはいくつか存在する。

*2:web.archive.org

*3:常盤木メカニズムほどではないが使いたいと思ったときにいつでも再録することができるメカニズムの総称

*4:magic.wizards.com

*5:これについてはまた別の機会に語りたいと思う。

*6:接死を持っているのは元《謎の原形質》の方であって《灰色熊》に与えているわけではないことに注意が必要だね。