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キーワード能力雑記:【第7回目】~コーナーで差をつけろ!~

キーワード能力雑記へようこそ!

この記事では毎回1つのキーワード能力に焦点を当てて色々深堀していこうと思う。
第7回となるキーワード能力は『瞬速/Flashだ。

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いきなり飛び出て相手の戦略を狂わせる能力


それじゃあいつものように瞬速の定義を見ていこう。

702.8 瞬速/Flash

  • 702.8a 瞬速は、その能力を持つカードをプレイすることのできるあらゆる領域で機能する常在型能力である。「瞬速/Flash」は、「あなたはこのカードを、あなたがインスタントを唱えられるときならいつでもプレイしてよい。」ということを意味する。
  • 702.8b 一つのオブジェクトに複数の瞬速があっても効果は変わらない。


702.8bはいつもの複数持っていても意味がないことを示しているだけだから実質702.8aが瞬速の個性と言えるね。

702.8a 瞬速は、その能力を持つカードをプレイすることのできるあらゆる領域で機能する常在型能力である。「瞬速/Flash」は、「あなたはこのカードを、あなたがインスタントを唱えられるときならいつでもプレイしてよい。」ということを意味する。


前半部分は置いておいて後半の文章で瞬速は「あなたはこのカードを、あなたがインスタントを唱えられるときならいつでもプレイしてよい。」という文言そのものだといっているね。
つまりその文言の意味が分かれば瞬速を理解できるね。


……と、その話を進める前にマジックにおいて呪文を唱えられるタイミングについて確認しておこう。

土地以外のカード*1は基本的に「自分のターンのメイン・フェイズ中でかつ他に呪文も能力もスタックに乗っていない*2」タイミングに唱えられるよね?
ただしインスタントと呼ばれているカードたちは例外で、そのような制限を無視して相手のターンだろうが誰かが呪文を唱えている間だろうが唱えることができるんだ。

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代表的なインスタントたち


この記事を読んでいるような人たちなら何を当たり前のことをと思うかもしれないけど、この話が瞬速を語るうえでとても重要になってくるんだ。


話を戻すと「インスタントを唱えらえられるときならいつでもプレイできるようになる」とは本来のカードタイプが持つ制限を無視してインスタント同様好きな時にプレイできるようになるというのが瞬速が持つ役割といえるね。

こうしてみると定義前半部分の意味がよくわかるね。
つまり墓地やライブラリなど手札以外から唱える時もインスタント同様唱えられることを保証するために定義されているんだ。


さあ、瞬速の定義はこれでおしまいだ。
今までのキーワード能力に比べてもすごくシンプルな能力だったね。
ただし、瞬速について気を付けなければならないことが3つあるから順番に見ていこう。

まず1つ目は瞬速とインスタントは違うということだ。

瞬速はあくまで唱える制限をインスタントと同様に変えるだけでカードタイプには手を加えていない。
だからインスタントに影響のあるカードがあっても瞬速を持つカードには意味をなさないし、その逆も同じなんだ。

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インスタントではないから《緊急阻止》で瞬速を持つカードは打ち消せないし、《狡賢い夜眷者》の能力でインスタントのコストを下げることはできない


2つ目は瞬速を持つ土地についてだ。

カルドハイム現在、初めから瞬速を持つ土地は存在しない*3けど仮に土地が瞬速を持っていたとしたらどうだろう。
もう一度確認すると瞬速は「あなたはこのカードを、あなたがインスタントを唱えられるときならいつでもプレイしてよい。」だ。
プレイには呪文を唱えることと土地を戦場に出すことの両方の意味があるんだ。
つまり瞬速は土地のプレイに関してもインスタントと同じタイミングでプレイしてもよいといっているね。

ただし土地には以下のルールがある。

305.3 プレイヤーは、いかなる理由があれ、自分のターン以外には土地をプレイすることはできない。プレイヤーにそうさせるように指示する部分は無視する。同様に、そのターンに許可されている全ての土地のプレイを済ませているプレイヤーは、土地をプレイすることはできない。プレイヤーにそうさせるように指示している部分は無視する。

つまり瞬速を持つ土地は自分のターンであればいつでもプレイできるけど、対戦相手のターンにプレイすることはできないんだ。
他にも1ターンに1枚しか出せないことやスタックを用いないことなどの土地に関するルールもそのままだから注意しよう。


3つ目が「瞬速を持つ」ことと「瞬速を持つかのように唱えられる」の違いだ。

まずは以下の2枚について見てほしいんだ。

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どちらもテフェリーをカード化したもの


注目してほしいのは《ザルファーの魔道士、テフェリー》の「あなたがオーナーである、戦場に出ていないクリーチャー・カードは瞬速を持つ。」という能力*4と《時を解す者、テフェリー》の「[+1]:あなたの次のターンまで、あなたはソーサリー呪文をそれが瞬速を持っているかのように唱えてもよい。」という能力だ。
この2つはどっちも瞬速に関する効果だけど何が違うかわかるかな?


答えは前者は特定のカードに対して実際に瞬速を与えているけど、後者は特定のカードに瞬速と同じタイミングで唱えることを許可するという違いだ。

簡単にいうと《ザルファーの魔道士、テフェリー》がいる限り君がオーナーであるクリーチャー・カードは瞬速を持つけど、《時を解す者、テフェリー》の[+1]能力を起動しても君が唱えるソーサリー・呪文は瞬速を持っていないんだ。
この違いは1つ目に説明した際に出てきた《狡賢い夜眷者》のように瞬速を参照する能力に影響を与えるね。

実は他のカードに「瞬速を持つかのように唱えられる」能力を与えるカードはたくさんあるんだけど、実際に瞬速を与えるカードはこの《ザルファーの魔道士、テフェリー》だけなんだ。

なぜほとんどのカードが瞬速を与えずに「持つかのように」なんて回りくどい方法をとっているんだろう。
明確な理由を見つけることができなかったからここからは僕の推察だ。

まず、定義から瞬速はあらゆる領域で有効になる。
ということはもし実際に特定のカード群に瞬速を与えようと思った場合、あらゆる領域から条件に合うカードを探してそれらのカードテキストに瞬速を追加するという処理が働くことになる。
このことはテーブルトップではあまり問題にならないかもしれないけど、MOやアリーナのようなデジタルの場では処理が煩雑になることが予想できるね。
しかも、この処理は瞬速を与えているカードの効果が切れた際にも同様のチェックをしてそのカードで与えていた瞬速を失わせる必要もある。
一方で「瞬速を持つかのように唱えられる」の場合はそのような煩雑な処理をせずに唱え始める段階でそのカードが適正に唱えられるかチェックする時に一緒に確認するだけで済むね。

両者の差は瞬速を参照するカードに引っかかるかどうかだけど、そもそも参照するカード自体が少ないからそのような相互作用を失ってもプレイヤーはあまり"損した"と思わないんじゃないかな。
ならばより処理が簡略になる「瞬速を持つかのように唱えられる」を採用しようと思うのが開発する側の気持ちだと思う。

そういった理由で実際に「瞬速を持つかのように唱えられる」を採用しているんだと僕は思う。
では、何故《ザルファーの魔道士、テフェリー》は瞬速を与えるのだろう。
それは瞬速の歴史に答えがあると思っているから見てみよう。



瞬速が初めてキーワード化されたのは時のらせんだ。
ただしそれ以前からインスタント以外をインスタントタイミングで唱えてもよいといったテキストを持つカードは存在した。

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マジック最古の瞬速クリーチャー


ただし瞬速はこのテキストをキーワード化しようと生まれたものではなかったんだ。

当時マジックの主席デザイナーマローことマーク・ローズウォーターはこんな大胆なことを考えていた。
「インスタントをカードタイプから特殊タイプ*5にしよう!」
今の僕らが聞くとすごいことを言っている気がするけど、これには彼なりのしっかりとした理由があるんだ。

まず、マジックのカードは大きく2つにわけることができる。
それは「戦場に出てゲームに影響し続けるカード」「使いきりで一度使ったら墓地に行くカード」だ。
そのうち前者のカード群にはパーマネントという総称が与えられているね。
一方で後者にはそのようなものはなくテキスト上では「ソーサリーかインスタントであるカード」といった書き方がされているんだ。
これは少しばかりスッキリしない書き方だね。
ここでインスタントを特殊タイプにするとどうなるだろう。

瞬速熊 (1)(緑)
クリーチャー ― 熊
あなたは瞬速熊を、あなたがインスタントをプレイできるときならいつでもプレイしてよい。
2/2

例えば上のようなカードはこう表せる。

瞬速熊 (1)(緑)
インスタント・クリーチャー ― 熊
2/2

インスタントの特殊タイプを持つカードはインスタントタイミングで唱えることができる。
このように定義してやればテキストがスッキリして分かりやすくすることができるね。
そしてこれまでインスタントだったカードはインスタント・ソーサリーとして扱うわけだ。
そうするとパーマネントでないカード群はソーサリーの一単語で表せるね。

だけどこの計画は失敗に終わることになる。
マローが他の開発陣を説得していったけどうまくいかなかったんだ。
なぜこの案が通らなかったのか、それは一言でいうと「時間が経ちすぎた」だ。

カードタイプの廃止自体は過去にもインタラプトやマナ・ソースの例があった。

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現在はどちらもインスタントに吸収された


だけど時のらせんが発売された2006年の時点でマジックは13年の歴史を積み上げられていたんだ。
この長い歴史の中で数えきれないほどのカードが作られ、彼の提案はそれらに多大な影響を与えるため今更変更できることではないと判断されたわけだね。


その代替案として生み出されたのが瞬速というキーワード能力というわけだ。
非パーマネントカードの総称の問題は残っているけど、テキストをわかりやすくするという目的は果たせたわけだ。


瞬速の導入で過去の「あなたがインスタントをプレイできるときならいつでもプレイしてよい」カードはエラッタが入り瞬速を持つようになった。
一方で他のカードに「あなたがインスタントをプレイできるときならいつでもプレイしてよい」効果を与えるカードは「瞬速を持つかのように唱えられる」効果にエラッタされたんだ。
ここで瞬速を与えなかったのは瞬速を参照するカードとの相互作用が変化してしまうからだと思う。
ただし、《ザルファーの魔道士、テフェリー》は時のらせんに収録された新カードだ。
だから過去のカードのような相互作用の変化を気にする必要がなく、素直に瞬速を与える方法をとったんじゃないかな。
だけど、先述した通りデジタルでの処理が大変だったからその後の類似カードでは継承されず、「瞬速を持つかのように唱えられる」方法が採用されたのがこのカードだけが浮いているように見える理由だと僕は考える。


さて、瞬速の歴史はわかったから次は名前についてだ。
まず英語名のFlashについて。

これは開発中はSurpriseと呼ばれていたみたいだ。
Surpriseという単語には驚かすという意味があるから確かにあっているように感じるけど、開発陣はあまり気に入っていなかったみたいなんだ。
それはこの能力に「素早い」という意味合いを持たせたかったからだ。
それはインスタントタイミングでのプレイに《キング・チータ》のような素早く襲い掛かるというフレーバーがあったからかもしれない。
そうしていくつかの候補となる単語から選ばれたのがFlashだったんだ。
Flashには閃光や一瞬といった意味があって非常に短い時間というイメージがあった。
そして既に存在している《閃光/Flash》というカードは瞬速とは違うもののインスタントタイミングでクリーチャーを出すというような類似点があった。

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瞬速の名前の元になったカード


まさにぴったりのように感じるね。
だけどここからももう1つだけ障害があった。
ここでは紹介しないけどFlashという単語を含む別のキーワード能力が既に存在するんだ。
しかもそのキーワード能力は同じセットに収録されていたんだ。
つまり名前が似ているのに機能は全く違うキーワードを作るかどうかが懸念されたわけだ。
最終的にはFlash以上にふさわしい名前を見つけることができずこの問題は許容されることになったわけなんだけど、名づけというのは難しいなと感じるね。

一方日本語訳では閃光ではイメージしにくいからか瞬速という訳になったらしい。
ちなみに瞬速は一般的な単語ではなくこの訳のための造語だけど、瞬く間ほどの速さで唱えられるという元の開発陣の意図を上手くくみ取りつつ効果を適切にイメージできる名訳だと僕は思うよ。


次は瞬速のカラー・パイについて見てみよう。
まず前提として瞬速は5色すべてで使うことが許されている能力なんだ。
これは瞬速がどちらかといえばフレーバーより機能を表した能力だからだと言えるね。
その中でもは第1色に位置付けられていてこれは後出しでの対処が得意という色の性質とインスタント以外の打消しのような瞬速を持っていないとそもそも機能しない能力を青が持っていることが理由となっているんだ。
次いで第2色にはが割り当てられている。
これの理由は対抗色である青への対抗姿勢や茂みから急に襲い掛かってくる獣を表現するためじゃないかな。
残りのについては長らく第3色として扱われてきたんだけど、2018年ごろからが、そして大好評発売中のカルドハイムからが第2色に格上げされたことがWotCから発表されたんだ。




White gets Flash Now!? Here's What's Next for White! | Good Morning Magic | Kaldheim


それぞれ格上げされた理由はこうだ。

まず前提として青と黒が共に得意とするキーワード能力がないという問題があるんだ。
何故それが問題になるかというとリミテッド環境を調整したりその組み合わせの多色カードを作ったりする際に制約となるからだ。
それまで様々な形で試行錯誤はされていたんだけどあまりうまくいくことはなかった。
そんな中白羽の矢が立ったのが瞬速といわけだ。
青はもともと瞬速が得意な色だ。
ところで黒には例えば暗殺者のように突如現れて襲い掛かってくる脅威がいるよね。
これは瞬速が持つフレーバーと相性がいい。
そういうわけで黒の中で瞬速の立ち位置を向上させ、青黒の共通点を増やす目的で第2色へと格上げされたんだ。

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闇から突如現れる脅威


白の理由は統率者戦に向けてのものだ。
統率者戦は伝説のクリーチャーを1体選び、そのクリーチャーが持つ色のカード99枚で構成されたデッキで戦う多人数向けの人気フォーマットだ。
ところでWotCはマジックのゲームの中で色ごとの役割や強弱が同じくらいになるよう調整しているわけだけど、統率者戦ではこの調整が行き届いていないという不満が寄せられていたんだ。
特に白は最弱の色扱いを受けてしまっている。
その理由は統率者戦が多人数戦かつライフが40点スタートであることから、白の得意とするウィニー戦略がうまく働かず、逆にドローやインスタントタイミングでの干渉力の弱さが目立ってしまい、勝ち切ることが難しくなっているからだ。
そのうちのインスタントタイミングの干渉力にメスを入れるために瞬速を用いようというわけなんだ。
もともと白には瞬速を持つ天使クリーチャー*6が自軍を守るために現れるカードがいくつかあったことや、Flashの持つ光のイメージが白と相性が良かったのも選ばれた理由かもしれない。

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窮地に駆け付け自軍に救済を与える存在


その結果、現在の瞬速第2色はの3色が並んでいる状況だ。
この変更がこの後も継続していくのかは今後の芯セットを見ていくしかない。
このようにカラー・パイは日々絶えず変化するものだということを覚えておこう。


カード紹介に移る前に1つだけ、瞬速の特徴として「テキスト上では他のキーワード能力と区別されて書かれ、概ねその位置は文章欄の先頭である」というのがあることを紹介しておこう。
いったいどういうことなんだろう?
それは以下のカードを見比べると一目瞭然だ。


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《竜の眼の歩哨》は防衛と先制攻撃を持つクリーチャーだ。
注目してほしいのはテキスト欄で、防衛と先制攻撃が一行で書かれているよね?
このようにいくつかのキーワード能力を持つカードはテキスト欄を有効に使うために連続で書かれることがあるんだ。

一方で《ベナリアの騎士》はどうだろう。
瞬速と先制攻撃が別々の行に書かれているね。
また、確かに瞬速の方が1行目に書かれているね。

何故テキスト欄を圧迫してまでこうしているのか、それはプレイアビリティの向上のためだ。
もしこれが他のキーワード能力の列挙の中に書かれていたとしたら、プレイヤーはぱっと見それがインスタントタイミングで唱えられるカードであるかわからず、最悪の場合見落としてしまう可能性があるだろう。
これが原因で適切なプレイができずゲームに負けてしまったら悔やむに悔やみきれないよね。
そういったことを避けるために瞬速は行を占有してでも独立して書かれているんだ。

また、瞬速は唱える時には重要だけど、ひとたび解決されてしまえば何もしない能力だ。
戦場に出ているカードに対してそれが何をするかテキストを確認したいときとかは瞬速という単語は確認の邪魔になってしまう。
でも、他のテキストから隔離されていればその部分は読み飛ばして残りのテキストに集中できるよね。
そういった点を考慮してか文章欄に書かれる能力の順番というものが概ね決まっていて、唱えることに関する能力である瞬速は文章欄の先頭の方に書かれることになっているんだ。

僕らが普段煩わしさを感じずゲームができているのはこういった細かい規則によるものがあるんだね。


さて、話は戻っていつものカード紹介だ。

まずは久々にスリヴァーに登場してもらおう。

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激浪計画の指揮者は、スリヴァー研究の迅速な成果を求め、その願いを叶えられた。


《活性スリヴァー》は例のごとく自他問わずすべてのスリヴァーに瞬速を与えるタイプのスリヴァーだ。
ただし既に確認したように実際に瞬速を与えているわけではなく、瞬速を持っているかのように唱えることを許可する形でだ。

フレーバーテキストにある激浪計画は人間とタコやイカのような見た目のセファリッドと呼ばれる種族の間で行われた共同魔術研究機関の名前だ。
彼らは偶然見つけたスリヴァーの残骸を復元、増殖させることとそれらを突然変異させる研究に熱狂し、ついにそれに成功するわけなんだけど、スリヴァーたちの増殖スピードを制御できず、最終的にスリヴァーたちは研究所を逃げ出し暴れまわることになるんだ。
《活性スリヴァー》はその暴走直前の様子を描いているわけだ。
そう考えるとイラストも永い眠りから覚め、他のスリヴァーたちに合図を送っているようにも見えるね。
《活性スリヴァー》という訳もフレーバーをより濃く表していると思うよ。

ちなみに英語名である《Quick Sliver》は水銀の英語"Quicksilver"とのシャレ。
SliverがSilver(銀)と似ているということでよく間違えられていたことに由来するらしい。
だけどそのせいでこのカードはデザイン上「失敗」と言われてしまったんだ。
それには《活性スリヴァー》が収録されたレギオンにいるこのカードが関係している。

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例のごとく"速攻"はまた今度


このカード、日本語名だと何の問題もないんだけど、英語名では《Clickslither》(=クリックスリザー)といい、《Quick Sliver》(=クイックスリヴァー)に非常に発音が似ているんだ。
……耳で聞くだけだと聞き間違えてしまいそうだ。
これが全然違うセットに収録されていたら小ネタの1つくらいで済むだろうけど同じセットに入っているということはドラフトやスタンダードでどっちも見かける可能性がありプレイアビリティ上の問題があるね。
この教訓からWotCはカード名のつけ方に注意を払うようになったらしい。
もう何度目かわからないけどやっぱり命名は難しいね。


次に紹介するカードはこの2枚だ。

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条件を達成することで自分自身が瞬速を持つカードたち


瞬速を与えるカードが《ザルファーの魔道士、テフェリー》だけだという話は既にしたけど、実は自分自身に瞬速を与えるカードは2枚だけあるんだ。
それが《粉砕する潮流》と《相互破壊》だ。

《粉砕する潮流》はマーフォークをコントロールしている限り瞬速を持つキャントリップ付き*7のバウンスだ。
もともとはマーフォークをコントロールしているとキャントリップできる呪文だったけど弱すぎたために今の形になったらしい。

《相互破壊》は瞬速を持つパーマネントをコントロールしていると瞬速を得られる《骨の粉砕》の上位互換だ。

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自分のクリーチャーをコストに相手のクリーチャーを破壊する


なぜこの2枚は瞬速を得る形で書かれているんだろう?
もしかしたら仮説は間違っていたのかな?

いや、これにはおそらく次のルールから瞬速を与える形でも問題ないと判断されたんだと思う。
それは「インスタントやソーサリーに書かれているテキストはスタック上でしか働かない」というものだ。
より正確にルールを書き出すと以下のようになる。

113.6 インスタントまたはソーサリー・呪文の能力は、通常、そのオブジェクトがスタックにある間にのみ機能する。他のオブジェクトの能力は、通常、そのオブジェクトが戦場にある間にのみ機能する。例外は以下の通り。
(中略)

  • 113.6d オブジェクトの、その特定のオブジェクトをプレイするあるいは唱えることに制限や修整をもたらす能力は、プレイできるあるいは唱えられる領域にある間とスタックにある間に機能する。その特定のオブジェクト自身にそれをプレイするあるいは唱えることに制限や修整をもたらす他の能力を与えるそのオブジェクトの能力は、スタックにある間にのみ機能する。

要は唱え始めようとスタックに移った段階で瞬速を持つかどうか条件をチェックするわけだ。
ここでチェックOKの場合は晴れて瞬速を持つことが許されコストの支払いへと進むことができ、NGだった場合は(それがソーサリータイミングでなければ)その行動は差し戻されるという流れになるんだ。
つまり、《粉砕する潮流》も《相互破壊》も唱えている間以外は瞬速を持つことは一切ないから前述したような問題が起きないんだ。
だからより直感的なテキストにしようとしたんじゃないかな。

特に《相互破壊》が収録されたイコリアではキーワード能力を付与するカウンターやキーワード能力を参照するカードが多数収録されたセットだ。
瞬速も例にもれずすでに登場している《狡賢い夜眷者》の他にも《滑りかすれ》といった瞬速を参照するカードが登場している。

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瞬速を持つカードを唱えると1ドローと(なぜか)対戦相手を1点ルーズさせることができるクリーチャー


こういったカードがある中では瞬速か「瞬速を持つかのように」かは大きな違いになるね。
そういった点も実際に瞬速を与える形にした理由なんじゃないかな。

余談だけど《相互破壊》を唱える時に追加コストとして瞬速を持つクリーチャーを生け贄に捧げた結果、瞬速を持つパーマネントをコントロールしている状態じゃなくなった場合を考えてみよう。
この場合、瞬速を持つかのチェック時はまだコストを支払っていないから、実際に瞬速が与えられ、適正に唱えられると判断される。
だけどコストを支払った結果、瞬速を持つことができる条件から外れ、瞬速を持たない状態に戻ってしまう。
だけど適正に唱えられるかどうかのチェックは既に終えているから差し戻されることはなく通常通り解決される。
つまり、「解決自体はするけど瞬速を持つ呪文を唱えることで誘発する能力は誘発しない」というのが答えとなるんだ。


閑話休題
この変更は今後も続くんだろうか。
そもそも「ソーサリーだが条件を達成することでインスタントタイミングで唱えられるようになるカード」そのものがそう多いものでもないんだ。
そのようなカードはイクサランの《粉砕する潮流》の前はマジック・オリジンの《迅速な報い》でさらに前となるとインベイジョンのサイクルまで遡る必要がある。

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魔巧は「墓地にインスタントやソーサリーが2枚以上あったら~」を表す能力語
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追加で2マナ支払えばインスタントタイミングで唱えられるサイクル


今後瞬速を持たせる形が定着するのかはたまた元の書式に戻るのか注目だね。


最後にテストカードから2枚紹介しよう。

まず1つ目が《Animate Spell》だ。

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《動く○○》シリーズのスペル版

これはスタック上にあるインスタントかソーサリーをクリーチャーにするオーラだ。
これがエンチャントされたインスタントかソーサリーは本来出るはずのない戦場に自身のマナ総量*8に等しいパワーとタフネスを持つクリーチャーとして出すことになるんだ。
そしてこれが外れると戦場に出ていたそのカードは元の呪文に戻り、戦場から唱えられることになる。
つまりこのオーラがついている限り使いきりだった呪文に実態を与えようというのがこのカードのコンセプトだ。

なぜこれが瞬速を持っているか、理由は簡単だね。
そもそもスタック上のソーサリー・呪文やインスタント・呪文を対象にエンチャントしようと思ったら、そのオーラもインスタントタイミングで唱えられないといけないね。
瞬速が機能上持っていないとカードがやろうとしていることを実現できないから持たされているいい例だ。

ちなみにこのカードは実は黒枠でカード化されているんだ。
それが《生ける伝承》というカードだ。

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墓地にあるインスタントかソーサリーを実体化させるカード


いろいろ見た目は違うけどやりたいことのコンセプトは同じなのがわかるね。
これは銀枠セット用に作られていた《Animate Spell》のアイディアを黒枠で実現できるように調整されたものなんだ。
このようにボツとなったカードが別のカードとして実現することはよくあることなんだね。

もう1つは《Visitor from Planet Q》だ。

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名前は《Q惑星からの訪問者》といった感じか


これは厳密には瞬速を持つカードではないけど、瞬速の歴史と深いかかわりあいのあるカードだと言える。
テキストにはこれが戦場にある限り、全ての瞬速を持つカードは本来のカードタイプに加えインスタントとしても扱うとあるね。
つまり、マローがやりたかったことを実際にやってしまおうというのがこのカードが持つコンセプトだ。

余談だけどこのカードが持つ"Alien"というサブタイプは黒枠の世界には存在しないからこれがクリーチャータイプなのか呪文タイプなのかわからないんだ。
普通に考えればエイリアンだしクリーチャータイプだろうけど、追加するインスタントはあくまでカードタイプであり特殊タイプでないから呪文タイプの可能性も残っていてテストカードならではの謎があるカードだと言えるね。



さて、今回は瞬速について色々見てきた。
この記事が面白いと思っていただけたのなら幸いだ。

次回はおそらくキーワード能力の中で一番有名なあの能力がついに登場する。
その日まで、あなたの速さが足りていますように。

*1:土地は唱えられない

*2:優先権については割愛

*3:後から持たせることはできるんだけどわかるかな?答えはこの記事のどこかにあるから探して見てほしい

*4:この能力で《ドライアドの東屋》が瞬速を持つ土地になる

*5:「基本」や「伝説の」のようなカードタイプの前に書かれる特殊なタイプ

*6:"飛行"については割愛

*7:本来の効果のおまけとして「カードを1枚引く」がついているカードの総称

*8:ストリクスヘイヴン以前では点数で見たマナ・コストと呼ばれていたもの。